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10月8日の日記。渋谷の本屋を巡った。

人混み、人混み、人混み。平日昼前の駅構内に目が回るくらい人がいる。平日の昼間なのににこんなに人っているんだな、そんなことを思いながら迷路のような駅構内を歩いていく。人が多すぎて肩と肩がぶつかりそうになるので、たびたび肩を後ろの方向に半回転してすぐに元に戻す。出口が多すぎてどこに行けばいいのか分からずまた肩を半回転させながら駅構内を彷徨っている。

私はバイトの面接で渋谷に来ていた。現在連日同僚が何人もクビになるような激ヤバコールセンターで務めているのだけど、始めてからまだ3ヶ月しか経ってないのに既に辞めたい。新卒正社員で入った会社を2ヶ月で辞め、その後始めたアルバイトをすぐに辞めようとしている。ああ、なぜこんなことになっているんだろう。平日の昼間にふらふらしているフリーターの苦悩である。

兎にも角にも面接は40分ほどで終わりやることもなかったので本屋を巡ることにした。

最初に向かったのは青山表参道にある「山陽堂書店」だ。この書店は1831年創業の歴史ある書店らしい。1階と2階に上がるための階段に本がぎっしり並べられている。2階に登る途中1.5階部分のスペースの天井がかなり低くてなんだかワクワクした。まったくタイトルも作者も知らない本をパッと取って買ってみた。

それが佐野洋子さんの「私の息子はサルだった」というエッセイだった。佐野洋子さんは絵本でおなじみ「100万回生きたねこ」の作者である。あとがきの部分でそれを知った。

国語の教科書で出てきそうな懐かしくて優しい文章だった。帰りの電車でがたんごとん揺られながら胸がホワホワした。

この本を買って山陽堂書店を出た後いくつか古本屋に寄ってから渋谷にある「Flying Books」というブックカフェに向かった。

店内に入ると古本を売るスペースとバーカウンターがありただの古本だけではなくものすごく古そうな洋書や雑誌がたくさん置いてあった。バーカウンターに男性が一人いたので声をかけてカフェオレを注文した。スマホでこのブックカフェを検索すると私の目の前にいる男性が記事の写真に写っていた。

「これってご本人様ですか?」と私が聞くと

「そうですよ。」とその男性は答えた。

「今日実はバイトの面接帰りで本屋巡りしてるんです。」

「そうなんですね。お客さん大学生ですか。」

「いえ、23歳の社会人なんですけど新卒入社した会社辞めちゃって。ふらふらしてます。」

「なるほど。じゃあいろんなことできますね。バイトの面接受かるといいですね。」

「そうなんです。受かればこのお店にも寄りやすいのでありがたいんですけど。」

さっき見つけた記事にこの男性がワンコインで買える詩集を売っていると記載があったので、何冊か試読させていただいた。詩というものに正直あまり関心はなかったが、そういえば詩集とか読んだことないなとふと思ったので一冊買ったのだった。

それが長沢哲夫さんの「地球によりかかり笑っています」という詩集である。この方は60人程度の住民がいる沖縄の離島で半分自給自足をしながら漁師・詩人として生きている人らしい。カフェオレを飲みながら誰かに勧められた詩を真剣に読んだの初めてで時間が過ぎるのは早かった。

家に帰ってからじっくりと読んでみると7割くらいは「これはどういう意味だろう・・・」とあんまりしっくりこない感触だったが、いくつか「おお、これはなんか・・・いいぞ!好きだな。」という詩が見つかった。自分で作れる気は1ミリもしないけど、なんだかスッと入ってくる感じがした。この詩集しか読んでないので比較できないのが残念だ。もう2冊くらい買えばよかった。

ネットで話題になって本をワンクリックで買うのも楽でいいけれど、実際に自分の足で歩いて本を買うのも「作品に巡り合えている感じ」がして楽しい。気づけば休日を謳歌しまくっている自分がいた。

バイトの面接を受けたことなんてすっかり忘れてしまうところだった。ふらふらしているフリーターとしては全く良くないことだけど、すんごい充実した一日。

本屋巡りという多分オサレ感のある体験を味わえただけで十分満足だった。


終わり。





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