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グラフでみる鳥栖と浦和の経営状況

J1クラブのサガン鳥栖を運営するサガン・ドリームスが2019年度の決算報告で20億の赤字を計上したことが話題となりました。

今回はサガン鳥栖のホームページに開示してある経営情報をグラフにしてみました。

以下、当期純利益について簡単に説明します。サガン鳥栖の経営情報のグラフだけ見たい場合はスキップしてください。

「〇〇年度に△△円の赤字(黒字)」というとき、その額は経営情報上の当期純利益という欄に記されています。サガン鳥栖の経営情報では当期純損益金額となっていて、その額が約20億円ということです。

当期純利益を計算するには、主に以下が必要になります。

・サッカークラブとしての活動での損益 (営業利益)
・サッカークラブとしての活動以外での損益 (営業外利益)
・法人税等

営業利益 - サッカー活動の損益

サッカークラブとしての活動での損益を計算するには、サッカークラブの活動で得た収入と出る損失で引き算をします。企業の本業によって生じる収益と損失をそれぞれ営業収入、営業損失と呼びます。

営業収入には、チケット売上による入場収益、グッズ売上による物販収益、スポンサーからの広告収益などがあります。

営業損失には、グッズの売上原価、選手・スタッフのお給料のほか、試合運営のために警備員を雇う費用なども含まれます。

そして、(営業収入) − (営業損失)営業利益が計算できます。営業利益がプラスということは、企業の中心的な活動で利益をあげることができているということです。ここがマイナスとなると企業活動の健全性が問われることになります。

Jリーグライセンス交付の際は3期連続で赤字債務超過をしていないかが厳しく見られます。理論的には営業利益がマイナスになっても、営業外利益でプラスにすればよいのですが、後でみるように実際には営業収益の赤字がそのまま当期純利益の赤字につながることがほとんどです。そのため企業は営業利益がプラスとなるような予算を組むことが求められます。

なお、赤字と債務超過の違いについてはJリーグによる『2018年度クラブ経営情報開示資料』の最終ページを読んでください。

営業外利益 - 財務活動での損益

サッカークラブとしての活動以外での損益とは、株の売買や借り入れによる利子など財務活動による損益を指します。クラブの資金繰りの様子を見ることができるのがこの欄です。営業利益と営業外利益を足したものを経常利益と呼びます。経常利益は企業の経営力を表していることが多いです。

法人税等

法人税、住民税及び事業税というやつです。今回は省略。

当期純利益

以上をつかって、当期純利益は以下の式で計算できます。

当期純利益 = (営業利益) + (営業外利益) - (法人税等)

※損失が収入より大きいと利益はマイナスになることに注意

2019年度サガン鳥栖の経営情報

ここからは2019年度のサガン鳥栖の経営情報をグラフで見てみましょう。

※グラフ中の単位はすべて◯◯億円です。

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営業収益となる売上高25.6億円に対し、営業損失は44.6億円と大きく上回っています。これは25.6億円の収入のために44.6億円の費用を捻出したことになります。結果として19億円もの営業損失を出してしまい、経営陣は原因や過程についての説明を迫られることになりました。

サガン鳥栖 - 20億赤字の要因

2018年度の赤字は5億円でした。2019年度の20億円の赤字になった要因は何なのでしょうか。簡単に見ていきましょう。

大きな原因となったのが広告収入の大幅減です。

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前年度から広告収入は14億円も減少しています。これだけで赤字が5億円から20億円に増えたことを説明できそうです。

それでは前年度からの支出の変化を見てみましょう。営業損失の約半分を占めているのがチーム人件費です。

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2017年から2018年で7億円増えたチーム人件費ですが、2019年度では1.4億円の微減となりました。

収入の減少に対して、支出の減少が小さすぎたことが今回の20億円の赤字につながったようです。

収入が減ったにもかかわらず支出を抑えられなかった理由についてはThe Pageの記事で分かりやすく説明されています。

8億円もの年俸が生じていたトーレスの存在だけがチーム人件費を高騰させた理由ではなかったと竹原社長は舞台裏を説明する。

「ビッグスポンサーと出会い、一度優勝してみよう、というフェーズに乗ったなかでチーム人件費をどんどん上げていきました。複数年契約を結び、あるいは期限付き移籍ではなく完全移籍で選手を獲得した際に発生した移籍金などの償却に、2018年度と2019年度が費やされました。その間にスポンサーが撤退した状況に、チーム人件費が追いつかなかったのがこの2年間でした」

記事によると、今期予算におけるチーム人件費は約11億円と半減するようで、これを支えるのが育成中心のチーム作りです。Jリーグは今シーズンの昇降格がないことを発表しており、鳥栖のように時間をかけて経営を立て直そうとするクラブは増えると思います。

おまけ - 浦和レッズの場合

浦和レッズの経営情報をグラフにすると、営業収入と営業費用が高いレベルで競っていることがわかります。Jリーグ屈指の営業収入はそれに見合うだけの企業努力によって支えられている事がわかります。

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「浦和レッズの営業収入はリーグトップクラスだし、コロナの影響ってそんなにあるの?」

そう思う人もいるかも知れません。

それでは、コロナによって浦和レッズの収入がどうなっていくかを簡単に見ていきましょう。

2019年度の営業収入の75%が入場収入と広告収入です。入場収入は23億円、広告収入は38.4億円でした。仮に2020年度も同等の収入を見込んでいたとして、入場収入は現時点でほぼゼロです。広告収入についてはどうでしょうか。契約にもよりますが、試合の大多数が行われなかった場合、広告料の払い戻しといったことも起きるのではないでしょうか。

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楽観的に当初の半分の試合で観客動員をできたとして、広告収入の払い戻しも半分で住んだとしても約30億円の減収となります。これはクラブの総資産とほぼ同額です。

さらに問題となるのが営業収入と同じくらい高い営業費用です。

内訳の大部分を占めるのが事業運営費の31.8億円とチーム運営費の39.9億円です。ともに高い数字(サガン鳥栖は事業運営費がおよそ6億円、チーム運営費がおよそ26億程度)で、言い方を変えると高い営業費用を営業収入で補っていることになります。

浦和が今後どのように大きな減収を補っていくのか。鳥栖のような対応は可能なのか、それとも他の収入減を探すのか。

もちろん、コロナの影響を受けるのは浦和、鳥栖の2クラブではありません。スポーツ界全体としてどのようにマネタイズの仕組みを作っていくのかについても引き続き注目していきましょう。

おまけのおまけ - 浦和のチーム人件費

話は逸れますが2015年からチーム人件費(選手・監督・コーチ報酬)が1.5倍になっているのは興味深いです。

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グラフについて

データは各クラブのHPより(リンクですでに示してあります)

グラフはGoogle SpreadSheetで簡単に作りました。

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財務諸表の読み方について

こちらのnoteを参考にしました。

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