【ドバイ便り】vol.2:そして初めてのドバイへ
時は2022年7月。
わたしの人生を大きく変える瞬間が、静かに、しかし確実に近づいていました。
ただその時のわたしは、まだそんなことを知る由もありませんでした。
いつもと変わらない日々。
仕事に追われ、毎日のミーティングをこなす中で、ふとした瞬間に運命の歯車が動き出したのです。
その日も紹介で繋いで頂いた方とZoomでの会話が盛り上がり、「今度ぜひ飲みに行きましょう!」とわたしが誘ったその時でした。
「今、ドバイにいるんですよね」
その一言が、わたしの心に小さな火花を灯しました。
ドバイ?それってどこ?聞いたことはあるけど...中東の?お金持ちの国?
突如として現れた「ドバイ」という場所。
地球のどこかに存在している、アラブの国。
当時のわたしは、中国や東南アジアには旅行で行ったことがあるものの、ドバイなどという場所は全くの未知の領域でした。
まるで地球の反対側にあるかのような感覚。
地球儀で見たことがある程度で、ただぼんやりと「石油マネーで潤うお金持ちの国で、世界一がたくさんある」というおぼろげな情報だけを知っていました。
「ドバイ?どんなところなんですか?」
その一言をきっかけに、わたしは突如としてドバイという場所に興味を持ち始めました。
どんな場所?住み心地は?気温は?どんな人がいるの?どうやって仕事しているの?言語は?
次々と湧き出る質問を、わたしは矢継ぎ早に投げかけました。
その人は一つずつ丁寧に答えてくれて、そしてこう言ったのです。
「言葉じゃなかなか伝わらないから、実際来てみたほうがいいよ。
いったん日本に戻るんだけど、次ドバイへ行くときは一緒に行く?案内するよ」
わたしの返事は即座でした。
「はい、行きます!」
経営者になってからがむしゃらに走り続け、ぶつかっては走り続けてきたので、行動力だけは一人前。
決断も秒速です。
かつて、いや今でも自称している「お金大好き女」のわたしにとって、お金の匂いがプンプンする「ドバイ」という場所は、絶対に行くべき場所だと直感しました。
お金持ちの国。
世界中の富裕層が集まり、世界一がどんどん造られている場所。
人と金が集まる場所には必ずチャンスがある。
わたしはそのチャンスを掴む期待を胸に、ドバイという場所に心躍らせたのです。
暇があればドバイの情報を調べあさりました。
世界一のタワーや観覧車、観光客が胸を躍らせるアトラクションや豪華なディナー、美しく整った都市...それはどれも目を見張るものばかりで、まるで別世界のようでした。
ただし、現地の生の情報はどこにも見つけられず、法律を調べてみてもまるで魑魅魍魎でつかみどころがありませんでした。
やはりこれは行くしかない。
人生は知識と経験でできあがるのです。
それから1ヶ月後。
わたしは手持ちで一番大きなスーツケースを引きずりながら成田空港に降り立っていました。
空港まで送ってくれた運転手をお礼にと食事へ誘い、寿司を食べて運転手を帰しました。
もし万が一何かあったら、死ぬ前に食べないで後悔するのはきっとお寿司だと思ったからです。
海外旅行は何度か行ったことがあるものの、ドバイほど遠い国は初めて。
ましてや飛行機に10時間も乗るなんて、全くの未経験でした。
何を持っていけばよいかわからず、現地に何があるかもわからず、とりあえず一通りの身の回りの物を詰め込んだスーツケースが、わたしの不安と期待を物語っているようでした。
空港でZoomの人と合流し、一緒に飛行機へ乗り込みました。
初めてのエティハド航空。
エミレーツよりも少し安いからこちらにしたということでした。
飛行機が離陸するとき、なんだか寂しいというか侘しい、そして不安と期待が押し寄せ、少し涙が出ました。
離陸したらもう戻れない、そうまるで過去に別れを告げるかのように、自分の人生を振り返っていました。
初めての10時間のフライトは、慣れるまで苦痛でした。
窓側だったため移動もままならず、わたしはただエコノミーの小さな座席で身体を丸めながら、時間が過ぎるのを待ちました。
途中で不安になって
どうして行くなんて言っちゃったんだろう?
でももう引き返せない。
この10時間後にわたしは全く知らない国にいる。
これから自分はどうなっていくんだろう。
でも、試験勉強の時の絶望を考えたらこんなの屁でもない。
そう思いながら、押しつぶされそうな自分をひとりで鼓舞していました。
飛行機は順調にわたしを運んでいきました。
エティハド航空はアブダビ直通です。
気づけばインドの上を飛び、アラブ諸国の上を飛び、そしてアブダビに到着しました。
飛行機が着陸したときの安堵感。
外を見ると、そこには見慣れた日本の空港とは全く違う景色が広がっていました。
機内から出ると、突然むわっとした熱気に包まれました。
そう、それはドバイの中でも一番暑い季節。
蒸し上がるような熱気で呼吸が苦しくなりました。
全く見たこともない人種ばかりがごった返す中、スーツケースを回収し、わたしたちはドバイ行きのバスへ乗り込みました。
バスには顔と色の濃い人々やローブのようなものをかぶった人々が次々に乗り込んできました。
バスからの景色は、わたしが今まで見たことのないものでした。
遠くまでずっと続く砂漠。
たまに現れる枯れた草木。
地平線がとても遠くに見えました。
太陽が大きくて眩しかった。
走ること2時間、バスはドバイへ到着しました。
全く見たことのない景色。
美しい建物群。
行き交うアラブの人々。
わたしは息をのみました。
むしろ、その光景に飲み込まれないように立っているのが精一杯でした。
2022年7月24日。
その瞬間が、わたしの運命を大きく変えていくことなど、その時のわたしはこれっぽちも思っていませんでした。
しかし、振り返ってみれば、あの日、あの瞬間から、わたしの新しい人生が始まっていたのです。
ドバイの地に降り立ったその瞬間、わたしの心の中で何かが大きく動きました。
それは不安であり、期待であり、そして何か言葉にできない高揚感でした。
この未知の地で、わたしは何を見つけ、何を学び、そして何を得るのだろうか。
その答えはまだ見えませんでしたが、ただ一つ確かなことがありました。
わたしの人生の新しい章が、ここ「ドバイ」で静かに始まろうとしていたのです。