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001|立ち上がる

2021年1月13日(水)@犀の角
劇壇百羊箱新作公演『貴婦人と泥棒』の顔合わせの日。私はふと自分が人見知りなのを思い出してしまった。大丈夫だろうか。そわそわしながら三階へ向かう。プロデューサーの伊藤茶色(いとう ちゃいろ)さんの顔を見てほっとするも、さっそく身の置き場所に困る。とりあえず検温せねばと、体温計を持っていた男性に声をかける。

「や、やぎと申します。よろしくお願いします」
「やぎさん!あ!アダムです!」
と言われた。そんなハイカラな名前の知り合いはいなかったはず……と思ったがその声に聞き覚えがあった。去年の12月に犀の角で観て、笑いに笑った舞台『こわれがめ』の主人公・アダムを演じたその人だった。アダムさんこと石榑八真斗(いしぐれ やまと)さんに熱を測ってもらい、紅茶をいただく。「アダムです!」のインパクトに心と頬が少しゆるんだ。

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続々と出演者及びスタッフが集まり、定刻通り顔合わせが始まる。プロデューサーの伊藤茶色さん、作・演出の岸亜弓(きし あゆみ)さんから始まった自己紹介のバトンは、出演者の方々へと渡っていく。チラシに記載された順に回るバトン。名前と顔を覚えるのが苦手な私は、写真を撮り、名前と特徴、あだ名をメモする。大学生から50代までと幅広い年齢層。はじめましての方もいれば、お芝居を拝見したことがある方、顔馴染みの方と様々な人が集まっていた。出演者及びスタッフさんについては、今後の稽古場レポートで丁寧に紹介していきたいと思う。

自己紹介を終え、休憩。そして読み合わせへ。まだ途中だというその台本を役者さんたちが読み上げていく。ページをめくるたび、セリフが発せられるたび、仕掛け絵本のように登場人物たちが立ち上がってくる。でも彼らはまだ陽炎のように朧げだった。ゆらり、ゆらりとしたキャラクターを、セリフを読みながら掴もうとする役者さんたちの凄味たるや。その一方で、岸さんもまた何かを掴もうとペンを走らせていた。私はというとその様子をぐるぐると観察しながら、そして静かに興奮しながらシャッターを切っていた。今までは作り上げられたものを観ていた演劇。その立ち上がる瞬間を目撃していることに心震えた。きっと、おもしろい作品になる。まだ未完成の台本を見つめながら思った。

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(ペンを走らせる作・演出の岸亜弓さん)

でも、心の中で、何も知らないただひとりの観客としてこの作品と対峙してみたかったなとも思ってしまった。そんな贅沢な悩みを抱えながら、私は車を走らせ帰路についた。

【本日の一言】
「マスクはするけど、心は密に!」by 茶色P
(心は密に、少しずつ打ち解けていきたい)

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新作公演『貴婦人と泥棒』
【作・演出】岸亜弓
【出演】永峯克将|寺下雅二|若月彩音|田村美央|舞沢智子|石榑八真斗|山﨑到子
【会場】犀の角
【スケジュール】
2021年2月27日(土)14時/19時
2月28日(日)11時/16時
※各回開場は開演の30分前
【物語】
家事代行スタッフとして働きはじめたユキは、とある老婦人の家へと派遣されることになる。はじめは彼女の要求が理解できず苦労するユキであったが、次第に心を通わせていく。そんな中、友人であり同僚のアサヒから驚くべき事実が告げられるのであった――

新作公演『貴婦人と泥棒』について詳しくはこちらから


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