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コラムvol.2「ファーストペンギンになることを恐れない勇気」

 「起業家力向上コラム」では、起業に関する最新のトピックをご紹介します。
 vol.2は高知大学 地域協働学部 コミュニティデザイン研究室 准教授の須藤順さんより、「ファーストペンギンになることを恐れない勇気」をテーマにお届けします。


1. ファーストペンギンとは?

 ビジネスの世界で注目される言葉の一つに、「ファーストペンギン」というものがある。
 ファーストペンギンは、ペンギンの習性に由来する言葉で、群の中で最初に海に飛び込むペンギンのことを指す。周知の通り、ペンギンは常に集団行動をする動物として知られている。そのため、群を統率するリーダーやボスは存在しない。
 しかし、動物番組やドキュメンタリーではよく、多くの個体が隊列を組んで氷上を移動する姿や、エサの魚を囲い込んで捕食する姿を見たりする。これは、最初に行動を起こした1羽のペンギンに、他のペンギンたちが従うという習性がもたらした光景だと言える。
 この習性は、ペンギンたちがエサの魚を獲るために海に飛び込む際にも見られる。ペンギンは集団性が強いとされ、群の誰かが海に入るまでは、みんなが氷上にとどまって動かない。しかし、最初の1羽が先陣を切って飛び込むと、後に続くように次々と海へ飛び込んでいく。

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 この最初の一羽の勇敢なペンギンのように、「リスクを恐れず初めてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主」や「新しい業界や投資へチャレンジして先行者利益を得ること」を、敬意も込めて「ファーストペンギン」と呼ばれている。

2. 起業=ファーストペンギンになる勇気を持つこと

 「起業を志す」ということは、このファーストペンギンになる勇気を持つことと同義だと言える。これまでの正解やルールが通用しない、不確実性の高いVUCA時代においては、誰かがリスクを負い、新たなチャレンジを進めていくことがこれまで以上に求められる。
 しかし、ファーストペンギンになるということは大きなリスクを引き受けることでもある。特に、まだ誰もやったことがない方法で事業に取り組むということは、誰一人として唯一最適な解を持ち合わせているわけではない。したがって、うまくいけば大きな利益を生める可能性がある一方で、失敗のリスクも大きくなる。
 加えて、そうした事業上のリスク以上に実際に起業する際に引き受けなければならないリスクは、「自分が絶対必要だと思っていることを世の中の人は必要だと感じてくれない」ことによる精神的な不安感や孤独感、孤立感の存在だ。ましてや、社会性の高い領域での起業ではそうした状況に陥る傾向が高いことが指摘されている。
 もしかすれば、新たな事業を始めるということは、既得権益を有する人や組織にとっては脅威に感じ、自分たちの利益を脅かす存在だと誤解されて敵対視される場合もある。また、まだ世の中に課題に対する理解が広がっていない場合は、活動そのものが否定されたり、おかしいことを言っていると煙たがられることもあるかもしれない。
 画家のピカソが「いかなる創造活動も、はじめは破壊活動だ」と言ったとされるように、起業するということは、既存のルールや在り方をある意味で破壊することなのかもしれない。したがって、破壊によって何らかのネガティブな問題が意図せず発生する場合もあるだろう。
 こうした様々なリスクや不安を踏まえたうえで、自分が実現したい世界を創造したり、放っておくことのできない課題の解決を目指して起業するには、ファーストペンギンとしての勇気を持つことが何よりも大切となるのである。

3. 圧倒的当事者性の大切さ

 ファーストペンギンとしても勇気を持つことは重要な一方で、Jカーブと呼ばれるように、スタートアップや起業の成果はすぐに目に見えるわけではない。特に社会性の高い領域では成果が生まれるまでの道のりはより一層時間がかかることが想定される。
 この時大事になるのは、「本当にあなたが人生をかけてやるべきことなのか」「その事業はあなたじゃなきゃできないのか」「あなたがその事業をやる本当の理由はなにか」など、いわゆる、willやwhyの存在に自覚的であるかという点であるる。
 そして、そのwillやwhyが、あなた自身の圧倒的な当事者意識に基づいているのかがJカーブを乗り越えるためには必要になる。

4. YES,andできる仲間とコミュニティの大切さ

 リスクや不安を乗り越え、ファーストペンギンとして行動を進めていくには、Yes, andできる仲間やコミュニティの存在が欠かせない。
 一般的には起業におけるリスクとしては金銭的な面が取り上げられることが多い。もちろん、金銭的なリスクは起業において最もケアしておかなければならないものではある。
 しかし、それ以上に起業家が抱えるリスクとして大きいのは、孤独感や不安感、モチベーションの低下といった精神的な問題ではないだろうか。当初は熱意や想いを持って取り組んでいても、なかなか社会が受け入れてくれない期間が続いたり、否定や足を引っ張られたりすることで、自分は間違っているんじゃないか、やろうとしていることはこの世の中に必要ないことなのかもしれないなど、様々な不安が襲ってくる。
 こうした状況を支えるのは、Yes, andと常に肯定してくれる、安心安全な関係の仲間と場、コミュニティの存在である。そしてそれは、いつでも戻って素直に悩みや想いを吐露できる場とも言える。
 起業家はもちろん最終的には一人でいろいろな意思決定や責任を負うことになるが、そうした起業家を支えるのは、一緒に取り組む仲間や同じように起業を志し行動する仲間など、お互いの挑戦を称賛し合い、何かあれば支えてくれる、そんなコミュニティの存在だ。
 起業を志す人は、自分にとって安心安全な仲間や場、コミュニティをしっかりと作っておくことが重要となり、起業支援を行う側は、テクニカルな支援だけではなく、そうした起業家を支える環境の設定を進めていくことが地域に起業文化を創り出し、一人ひとりが自分らしいチャレンジをすることができる地域を創るうえでは大切になる。

(参考資料)
ビジネスにおけるファーストペンギンとは?リスクと引き換えに得られる大きな先行者利益 | 人事評価制度の教科書(2020年10月 6日最終アクセス、https://jinjiseido.com/media/entry/biz_penguin
ファーストペンギンの意味や使い方 - 事例も紹介 | マイナビニュース(2020年10月 6日最終アクセス、https://news.mynavi.jp/article/20190911-891229/
ファーストペンギンの経済学 | リーダーシップインサイト(2020年10月 6日最終アクセス、https://leadershipinsight.jp/2005/10/post_5836.html


プロフィール

須藤 順
(高知大学地域協働学部コミュニティデザイン研究室 准教授)

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博士(経営経済学)、社会福祉士、LEGO®SERIOUS PLAY®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテータ。医療ソーシャルワーカーとして勤務後、中間支援機関スタッフとして、コミュニティビジネス/ソーシャルビジネス、まちづくり/コミュニティデザイン支援に従事。(独)中小企業基盤整備機構リサーチャー(農商工連携政策及び中小企業人材育成等を担当)を経て、現職。専門は、社会的企業論/社会起業家論、起業家育成、コミュニティデザイン、ソーシャルビジネス、アクティブ・ラーニングなど。マイプロジェクト手法を活用した起業家育成、地域イノベーター育成に関する実践と研究を各地で展開。2018年2月中小企業庁・創業機運醸成賞受賞(「マイプロジェクト手法を活用した学生向けの起業・新規事業開発支援」)、消費者庁新未来創造戦略本部国際消費者政策研究センター客員主任研究官(2019-)、中小機構人材支援アドバイザー(2014-)等。


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