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社寺検分のすゝめ -本願寺 唐門④-

社寺検分、本願寺唐門の最終です。
本日5月21日は親鸞様バースデー、お誕生日おめでとうございます。

さて、これまでも随分とりあげて参りました。

施工した方からすると

「もうやめて」


ぐらい根掘り葉掘り。


施工業者って竣工した状態って見られないことが多いんです。
現場を撤収する時には足場やなんやかんや残っているので、
全て取り払われた全体写真は、元請けさんや監督さんの特権感があります。

しかし今回は地元の老舗社寺彩色業者さんが請けていらしたので
竣工後も見ていらっしゃるのでしょう。
それにしても私、

なかなか執拗に撮ったと自負しています。


そんな本願寺唐門、〆は植物です。




そう、これまで生き物を紹介しましたので
今回は植物かなぁと思いました。

思いましたが、これだけ獅子が跋扈ばっこしている唐門です。

植物も牡丹に占拠されている。


正面妻飾り彫刻の赤系牡丹
同じく妻飾り彫刻の白系牡丹
背面扉上の欄間彫刻は赤と淡い朱の具(ピンク)系牡丹
柱付き木鼻も紅白の牡丹
組物付きの木鼻もやはり牡丹
開きかける牡丹
虹梁上の束がこれまた牡丹
扉の隙間を埋め尽くす牡丹


百花繚乱というよりかは百花の王、乱立状態。
牡丹乱舞な唐門です。

ここまでくるとバリエーションに欠ける恨みもあるかと思いきや、
彫刻や彩色の仕様を細かく見ながら楽しみます。

しべが時計草みたいで面白い。
牡丹の茎の根元には赤や赤茶でぼかしを入れる王道スタイル
扉上の欄間は花弁の脈を金で、葉脈も墨で入れている。
表葉は青のぼかし、裏葉は緑のぼかし。
対して妻飾りは花弁も葉も細かい脈は描き入れない。


今回の彩色の仕様は
調査に基づいて決められているので、好き勝手描くわけではありません。

妻飾りは高所に取り付いているため
細かな描き込みをしても下から見えないので省いてあったからか…
とも考えましたが

人の目につきやすい木鼻なんかも脈が描かれていない。

細かい脈なしバージョンの木鼻


また花の塗り方も彫刻で異なっていて、
上の写真(柱付きの木鼻)は花弁に赤のぼかし、淡い緑のぼかし。

下の写真(組物付きの木鼻)では赤が「ぼかし」というより塗り切りです。

花弁の赤が塗り切り。葉は葉脈ありで青のぼかしなし。
扉の彫刻では葉も花も脈が描き込まれています。


だからなんだ、という部分ではあります。
ありますが、結構こういうのを楽しみに見ていまして
工事の方針だったり調査結果だったりに思いを馳せ一人ムフムフです。

全体的に前回の昭和修理の彩色から大きく変わったところはなさそうです。
虎柄だったものを豹に変えたのが大きな変化で、
あとは部分的な色味の変更でしょうか。
①雲の「臙脂繧繝」の色味を紫寄りから暗い赤寄りにした
②霊獣の体の黄土色にぼかしいれる茶色の色味を暗めにした
なんとなくこの2点が目視で味わえる令和彩色仕様です。
箔押しの位置ももしかすると変わっているかもしれません。

調査で細かく1つ1つを見ていくと
痕跡があるだのないだの、その時代はどうだっただの

それこそ重箱をひっくり返して中身を引っ張りだした後に、
においや湿り気を隅から隅まで追い回すかの如し


な状況になるんですが
正直なところ「社寺彩色」って

仏画でも工芸品でもない、「塗装」ですから


施工した人の気分やスタイルでマチマチなことも
ないとは言い切れんもんなぁと思っています。



さて、牡丹に埋め尽くされた唐門。
他に息づいている植物はといいますと、

大和松と竹
唐松と根元に笹
まんまるの松葉が唐松で、扇状の松葉が大和松です。

虎には竹
あとはタケノコ
相変わらず社寺彫刻の動物・霊獣、真正面からの顔は愛嬌たっぷりです。


以上、つまるところ花の彫刻は牡丹しかありません。

金具になると今度は

菊と桐ばかりという格式の高さ。


虹梁の錺金具は菊
五七の桐
至る所に菊桐の唐草
釘隠しの六葉金具にも菊・桐・菊・桐
墨差しがなくてわかりづらいですが、扉も菊・桐



本願寺さんといえば「下がり藤」のイメージもありますが
そちらは唐門にはありませんでした。



阿弥陀堂門で発見






さて、数回にわたり本願寺唐門の彫刻をご紹介して参りました。
ざっくりでしたが彫刻は一通りご覧頂けたのでは…と思います。

もうこれで、

本願寺唐門の彫刻が見たくなったら
いつでもこのnoteを見れば良いのです。



目立ちませんが、波や雲の形でもイイ形があります。
特に麒麟の周りには古い雲(宝雲文様ほううんもんよう)を思わせる形があって素敵です。


この流れる感じが実に良い
光琳社出版のベストセラー「日本の文様 雲」に掲載の小杉一雄氏の『宝雲文様』は
素晴らしい文章で打ち震えます。
唐草と竜の図像から雲気が独立して文様となる流れを、端的かつ情熱的に示されていまして、
なんだかもう一周まわって途方に暮れます。



そういうところまで追いかけていると
もう何が何やらになるので割愛しますが
今回収穫の画像たち、今後も資料として火を噴いてくれることでしょう。


それでは今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
また次回の投稿で。





おまけ(大盤振る舞い)

今回ご紹介できなかった本願寺飛雲閣鐘楼の名物彫刻・飛び込む獅子
飛び込んでいるその裏側
飛雲閣鐘楼の、このモシャモシャした「蓑束」といって良いかもはや迷う束
うししな飛雲閣鐘楼の豹にタケノコ
そしてうちの近くの竹藪
社寺検分の朝、タケノコがすくすくと竹になろうとしていました


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