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ブレスレット

怜(れい)は、
付き合った女性には必ずブレスレットをプレゼントする。

ブレスレットをした女性がたまらなく好きだった。
していない女性には付けさせた。
それぐらいブレスレットは、怜には大切なもの。

昔からずっとそうだった。

怜の母親は幼い頃に怜を置いて出ていった。
怜の母親は男にだらしなかった。
決してものすごい美人ではなかったが、色気のある女だった。
怜の父親はまじめな男だった。
仕事をして、まっすぐ家に帰る。
お酒もタバコもやらない。
ギャンブルもしない。

母親は怜が2歳の頃に、男と一緒に家を出た。
怜は母親のことはほとんど覚えていない。

怜の父親は怜が5歳の時に再婚した。
再婚相手は美沙子。
怜の父親の職場で一緒に働いていた女だった。

怜の母親は
男と出ていく時に離婚届けを置いていった。

美沙子は地味な女だった。
髪はひとつにまとめ、化粧っけもない。
アクセサリーはおろか、マニキュアなども塗らない。
怜の母親とは対照的だった。
何で怜の父親が、怜の母親を選んだのか。よくわからなかった。

怜の母親は、
髪は茶色く染め、赤いマニキュアを塗り、肌を露出した服を好み、タバコを吸った。
たくさんの指輪に、そして、ブレスレットをしていた。

怜が6歳の時に妹が産まれた。
彩(あや)と名付けられた妹は怜になついた。
怜も彩がかわいかった。
「にいに。にいに」
と言っては怜の後(あと)をついて回り、いつも彩は怜のうしろでもじもじするような子だった。

美沙子は怜と彩を平等にかわいがった。
後妻としていきなり息子ができたわけだが、美沙子は怜を本当の息子のようにかわいがった。
怜のことは「怜くん」彩のことは「彩ちゃん」と呼んだ。
彩も幼い頃は「にいに」と呼んでいたが、美沙子をマネしたのか、いつしか「怜くん」と呼ぶようになった。

怜の父親も彩をかわいがった。
女の子ということで、怜とは違うかわいさがあったのだろう。
父親の膝の上にちょこんと座り、犬のぬいぐるみを持ちながら指しゃぶりをしている彩の写真が、リビングのテレビ台の上に飾ってあった。

怜が15歳になった時
ふいに怜の母親が怜に会いに来た。
怜の通学路に立っていた。
怜は母親の顔は覚えていない。しかし、母親は赤いマニキュアはしていなかったし、指輪もはめていなかったが、ブレスレットをしていた。

右腕に光るブレスレット。

なぜだか怜は、そのブレスレットを見た瞬間に母親だとわかった。

母親は車で隣町のファミレスまで怜を連れて行った。
怜は運転する母親の右腕に光るブレスレットをずっと見ていた。
「怜。大きくなったじゃない」
そう言ってタバコを取り出したが、すぐにそのままバックにしまった。
「好きなもん食べなさい」
そう言って母親はアイスコーヒーを飲んでいた。
「怜。妹かわいい?」
母親に聞かれた怜はうんとうなずいた。
「これさ、お義母さんと、妹にあげてよ」
そう言って箱を2つ取り出した。
「怜からって言って渡してよ」
そう言って笑った。
「これ何が入ってるの?」
怜は母親に聞いた。
「うん。たいした物じゃないの」
そう言ってまた笑った。
「怜。また会いに来ていい?」

そう言った母親の右手のブレスレットが、怜の頭にこびりつき目が離せなかった。

おそらく、怜の母親は男と別れたのか、何かしら寂しかったのだろう。
怜に2か月か3か月おきに会いに来た。
怜は母親に会うのは楽しみだった。

母親の右手に光るブレスレットを見るだけで、なぜか胸がざわざわした。
それは嫌なざわざわではなく、どちらかというと、恍惚感(こうこつかん)に近かった。

母親にもらった美沙子と彩へのプレゼントはまだ渡せていない。
さすがに怜もそれは渡さない方がいいと感じていたからだ。怜の勉強机の一番下の引き出しの奥にしまいこんだ。上にはわからないように、本やガラクタを置いた。

「怜。彼女いるの?」
「いない」
「そっか。彼女できたら言って。彼女にプレゼントするから」
「いつになるかわからないよ」
「うん。できたらね」

怜は母親に会っていることは誰にも言わなかった。しかし、母親と会ってから家に帰った時に、彩が言った。

「怜くん。彼女でもできた?」
随分ませたことを言う。
「できるわけないだろ」
「そう?何か、女の人の匂いがしたから。気のせいか」
「なんだよ。女の人の匂いって」
「うーん。違うならいいの」
「へんなの」
怜の母親は香水はつけていない。
彩は何を感じたのだろうか。

そんなことを考えながら、母親の右手のブレスレットを思い出していた。

怜は高校生になってからアルバイトをはじめた。コンビニでバイトをした。
力仕事や掃除も嫌がらずにやる怜はバイト先で重宝された。
怜もバイトは楽しかった。
バイト代は美沙子は怜に管理するように言った。怜はバイトを3か月続けた時に、家族みんなでバイト代で食事に行こうと提案した。

父親はこっそり怜に10,000円渡した。
「怜が母さんと彩に出したことにすればいいから。足りない分は怜が出しなさい。」
そんな父親の静かな優しさが怜は好きだった。なんとなく男同士の暗黙の了解で、ありがたく使わせてもらうことにした。

怜はふと、母親からもらった美沙子と彩へのプレゼントを思い出した。
そうだ、食事の後に渡そう!

我ながら名案だと思った。

食事は食べ放題にした。
焼き肉も寿司もある。
みんなで楽しくお腹いっぱい食べた。

「怜くんのバイト代なんだから、怜くんが使えばいいのに。でもうれしい。ありがとう」
美沙子は少し涙ぐんでいた。
本当にいい義母だと思う。
「太っちゃう~」
そんなことを言いながら彩もよく食べた。
さあ、そろそろたくさん食べたしというタイミングで怜は母親からもらった箱を美沙子と彩に渡した。

「なんだ。プレゼントか」
父親は目を細めた。
「いいの?怜くん」
美沙子はまた涙ぐんでいる。
「あけていい?」
彩も喜んでいる。

包みを開けた美沙子と彩は、ニコニコしながら顔を見合わせた。

中身は
2人ともブレスレットだった。

つづく

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コメント (2)
おはようございます。

新しい物語始まりましたね。
ブレスレット。
ブレスレットには
私も思い入れがあるアクセサリーの1つです。

楽しみにしています。
そうだったんですね!

うれしいです。
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