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消しゴム顔

 二月の半ば、中学校からの帰宅途中に娘が交通事故に遭った。私は一度娘の様子を見に病院へ駆けつけ、その後すぐに入院に必要なものを息子と車で買いに行った。着いた先のショッピングモールで息子は急に消しゴムが欲しいと言いだした。
「家に買い置きがあるでしょう」と諭したが、どうしても欲しいと言う。私は急いでいたが、息子は小三となり友達のみで遊ぶ機会が増えてきたこともありその遊びに必要なのだろうと思い、買うことを了承した。
 買い物を済ませ再び病院へ行くと、仕事を早退した夫も既に来ていた。幸い怪我は軽かった。

 翌日からお見舞いのための病院通いが始まったが、順調に回復したお陰で二週間で退院が決まった。
 三月三日の退院の日、娘を迎えに行き帰宅すると夫と息子の二人で、飾りつけの途中だった雛壇を完成させていた。
 三人官女の顔は彫刻刀で削った消しゴムで出来ており、近づいて良く見てみると、「お・帰・り」と書かれていて、娘と一緒に泣き笑った。

                  (了)


このお話はこちらの企画に参加しています😃❣️



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