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不安は、先が見えない得体の知れない緊張感や怖さ / 正体がわかると不安は心配に変わる

副島賢和(そえじま・まさかず)昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任。2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフにもなった。2011年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。

漠然とした不安と具体的な心配

私は仕事として、病気を抱える子どもたちやその保護者の相談を聞く機会がたくさんあるのですが、その経験から、話をするときの人の体勢についてあることに気がつきました。

椅子に座っているときに背もたれに体を預けるようにしている、あるいは背もたれがなくても、肩を落として身を引いているような印象のときは、不安を抱えていることが多いのです。

何かははっきりわからない、得体の知れない緊張感や怖さを抱えているとき、人は「不安」になります。無意識にため息をついたり、「どうしたらいいんだろう?」と、途方に暮れます。打つ手が分からないからです。

新型コロナウイルスについても、どんな病気か症状もよくわからず、最初はみんな不安だったと思います。正体がわからないと、不安だからそこには近づけません。わからないものに前向きに取り組むことはできないのです。

それに対して、椅子に座っていても、少し体が前に傾き、私のほうにグッと近づいてくるような体勢のときもあります。
「ねえ先生、この問題さ、どうしたらいいかなあ」
「退院してから、あの子のために何かできることはあるでしょうか」
そのようなときには、自分が困っていることや不安に思っていることの正体がわかり、何か対処法を知りたいと思っているときです。


「心配」には対処できるので、それに近づき、取り組もうという思いが湧いてきます。
「心配だけど何かできることはないかな」「対処法がわからないので、具体的に教えてください」というように、気持ちが前に進もうとします。すると、不思議なことに姿勢も前のめりになるのです。

病気の場合、検査の結果が出るまでは、お母さんやお父さんも身を引いて話をされます。漠然としたものは不安です。結果が分かり、病気について理解が深まってくると、「私はどうしたらいいでしょう」と体が起きてくる。正体がわかると、不安は心配に変わるのです。それは、子どもも大人と同じです。

子どもの話を聞くときに、話している時の姿勢にも気をつけて見ていると、その子が漠然とした不安を抱えているのか、何か困りごとがあってそのことについて心配しているのかがわかることが多いと思います。


何かに取り憑かれたように勉強する子

入院中の子どものなかには、見ているこちらが怖くなるくらい勉強する子がいます。そんなふうに聞くと、「うらやましい」と思われるお母さんお父さんも多いかもしれません。

でも私は、そんな子どもの様子を見ると心配になります。そのとき、子どもの根っこにあるのは学習に対する不安であることが多いのです。入院していると、自分は友達から忘れられてしまうのではないか、自分はみんなに置いていかれてしまうのではないか、勉強も遅れてしまったらどうしようなどいろいろなことが混在していて、自分でもなんだかわからないけれど、勉強していないと落ち着かなくなってしまうのです。

病院に持ってきたドリルや問題集を時間さえあれば開いている子や、塾の宿題を山のように積み上げている子がいたら、「不安を抱えているのかな?」と思います。彼らは、どこかで勉強に対する不安を抱えている自分に気がついているはずです。でも言語化はできずに、黙々と勉強をしようとしています。

そんなとき、私はまずその子自身に「不安なんだ」ということに気がついてもらうにはどうすればいいかを考えます。

以前、小学校5年生で、院内学級でも病棟のベッドでも塾の宿題をずっとやり続けている子がいました。いつ見ても塾の宿題をしています。私はその子の様子を見て近くに行き、「あのさ、なんかしてないと不安?」とそっとたずねてみました。

するとその子は、手を止めて少し考え、「うん」とうなずきました。「そうだよね、不安だよね」とやりとりをしているうちに、心の内を話しはじめました。その子は、さまざまな気持ちを抱えていました。中学校受験に対する不満、入院中に勉強が遅れてしまうのではないか、塾のクラス分けで落ちてしまうのではないか、これまで誰にも打ち明けられなかったことをたくさん話してくれるようになりました。


不安な状態から意識が外に出る瞬間をつくる

その子は、それを機に、漠然とした不安を抱えながら何かに取り憑かれたように勉強を進めているときとはずいぶん変わっていきました。その子の気持ちをゆっくり聞くことで、「自分が今こんなに勉強しているのは、根っこに不安があるからなんだ」と気づくことができます。自分の中の不安をちょっと横に置いておけるようになるのです。

以前はずっと勉強をしていましたが、ただこなすように問題を解いていました。マイナスの状態にある自分をゼロに戻そうとしているので、全く楽しそうではありませんでした。勉強していない自分が怖い、勉強しなかったらどうなっちゃうんだろうと、わけのわからない緊張感の中で勉強をしていても楽しいはずがありません。間違った問題も、やり直す気分にならずとにかく先に進めようとしていました。

何より、ちゃんと遊べるようになりました。勉強以外のことに目を向けられるようになりました。ときには一緒にトランプやジェンガなどを楽しむなど、切り替えができるようになり、楽しく過ごす時間を持つことに後ろめたさを持たなくなりました。

問題に取り組んでいる時の表情も明るくなりました。間違った問題にももう一度取り組むようになり、もっと知りたい、もっとわかりたいという気持ちが出てきたように見えました。

私はその子に、「あのさ、なんかしてないと不安?」とそっとたずねてみましたが、その声かけを誰にでもすればいいというものではありません。その時のその子には、たまたまこの声かけがフィットしたのだと思っています。

そういうときに大事なことは、「自分が不安を抱えている」ということにその子自身に気がついてもらうにはどうしたらいいかな、と考えながら、そっと声をかけることだと思っています。

今も、学校や塾からたくさんの課題に追われている子どもたちがいるかもしれません。受験に向けて追い込まれている子どもたちがいるかもしれません。休むことも忘れて、何かに取り憑かれたように勉強をしている様子があり心配なときには、「勉強しすぎだからやめなさい」などと強引に止めるのではなく、ちょっと差し入れを持って行って声をかけてあげてください。

不安に飲み込まれている状態から、意識が外に出る瞬間をつくってあげるようなイメージです。お菓子やジュースを持って行って、「ちょっと今日は頑張りすぎじゃない?」「いつもと違って今日はどうしたのかなあ?」「ちょっと休憩したら?」と声をかけてあげるなど、「あなたがいつもと違う様子に気がついて、気にしている人間がここにいるよ」ということを、伝えてあげるだけでもいいと思います。

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