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焦点を子どもの感情や願いに合わせると 乱暴な言葉にとらわれなくなる

副島賢和(そえじま・まさかず)昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任。2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフにもなった。2011年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。

「死んじゃえ」「あの子嫌い」の言葉の奥にある「願い」

私は、「どんな感情も持っていい」「感情の後ろにある『願い』を見つける」と教わり、自分自身も子どもの頃から抱えてきた「泣いちゃダメだ」という考えを手放すことができるようになってから、とても楽になりました。

泣いている子どもや怒っている子どもを見たときも、私や他の人に向かってひどい言葉を投げつけている子どもを前にしたときも、「この子の向こうにある願いはなんだろう」と思って、そばにいられるようになりました。

昔流行った、目の焦点をずらすと立体が見えてくるステレオグラム(立体視)のような感じです。どこにフォーカスするかで、その子の見え方が変わってくるのです。目の前でギャンギャン泣いている子の姿を通り越して、その向こうに焦点が合い始めると、その子の「願い」が見え始めます。怒っていること、泣いていることに、いちいち反応しなくて済むようになりました。

講演会のとき、よくいただく質問にこんなものがあります。
「子どもたちに『死んじゃえ』『死にたい』と言われたら、どうすればいいのでしょうか」

その言葉の意味だけにフォーカスすると、そばにいることは難しい。その言葉の後ろにある「願い」は何かを考えても、「死にたい」ということがその子の「願い」なのかなと思ってしまいます。焦らずに、その言葉をまず「感情」に置き換えてみましょう。焦点を変えるには、2段階必要です。

「死にたいくらいつらい気持ちなんだね」
「あの子に死んじゃえって言いたいくらい悲しいんだね」
「いまとってもイライラしてるんだね」

その感情を受け止めて、その次に、感情の向こうにある願いを聞くのです。

「死にたくなるくらいつらいんだね。なにかいい方法はないかな。いい方法をほんとは見つけたいんだよね」
「あの子を見ているとそんなに悲しいんだね。あの子が目の前にいると落ち着かなくなるんだね。ちょっと向こうに行っててほしいのかな」

受け取るのが難しい言葉ほど、まず「感情」になおして、その後ろにある「願い」を聞き、そばにいるようにしています。

「あの子嫌い! もう遊ばない」と子どもが言ったときも、「そんなこと言っちゃダメ」と反射的に叱るのではなく、まずはその子の感情を受け止めてほしいと思います。
「嫌だったのね。お友達にはおもちゃ使ってほしくなかったのね」
そして、本人が落ち着いてきたら、その子の「願い」を言語化してあげるといいと思います。
「あなたもほんとはそんなこと言いたくないのよね。仲良く遊びたいんだよね」


してもらっていない人は、それを誰かににできる人にはならない

大人だって同じです。

例えば、あなたが子どもにガミガミ怒ってしまったとき、「そんな言い方することねえだろ!」とパートナーに言われたり、「そんな怒り方するあなたは好きじゃない」というメッセージを誰かに渡されたりしたら、あなたはどう思うでしょうか。感情を否定され、その奥にあった「願い」を否定され、あなた自身を否定されたような気持ちになるでしょう。

その時、パートナーがあなたに代わって子どもにこう言ってくれたらどうでしょうか。
「お母さんがこんなに怒っているのは、あなたにこうなってほしいからなんだよ」
「お父さんこんなに怒っているけど、こういうことを嫌だと思ってるんだよ」
「本当は、あなたのことが大好きなんだよ」

怒っているときも、悲しんでいるときも、あなたの感情を受け止め、その後ろにある「願い」を読み取り翻訳してくれる人がそばにいてくれたなら、きっと少し落ち着くことができると思います。自分がそうしてもらっていない人は、それを誰かにするのは簡単なことではありません。子どもも同じです。

子どもを怒鳴ったり叩いたりしたとき、子どもがそこで学ぶのはこんなことです。
「怒鳴って人を嫌な気持ちにさせる方法」
「自分の意に沿わないことがあったら怒鳴っていい」
「自分が納得できないときには叩いていい」

子どもは怒鳴られたり叩かれたりしたとき、なぜ叱られたかはよく覚えていません。でも、嫌だった気持ちは覚えています。他人を傷つけない子になってほしいのであれば、相手が自分の意に沿わなかったとき、その相手に対してあなた自身がどう関わるかをその子に見せる必要があります。

親や先生は、その子たちにどうなってほしいかを、その子に見せるモデルです。そのためには、何よりもまず、自分の中に出てくる怒りや悲しみを渡せる仲間を持つことです。「助けて」と言えるようになることです。

緊急事態宣言による自粛やステイホームという状況は、大人も本当に大変です。みんなとっても頑張っている。一人で頑張り続けることはできません。私たち大人は、「助けて」と声を上げ、まず自分自身が、パートナーや信頼できる人とお互いに支え合うことが必要なのです。ときには、専門家に頼ってもよいのだと思います。


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