_清貧と復興_土光敏夫

彼氏・彼女ができる本 『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』

土光敏夫。一介の技術者から企業のトップに出世し、晩年は経団連の会長、第二臨調の会長も務めた辣腕の実業家である。質実剛健な生きざまは、これまで多くの人の生き方に影響を与えてきた。そんな土光の生涯を100の語録で記したのが本書である。物質的には豊かでも精神が乏しい現代人に必読の書である。

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『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』/出町譲/文藝春秋/2011年8月10日初版/253頁

 この男を措いて“無私の人”は語れまい。土光敏夫、人呼んで「めざしの土光さん」である。
 明治29年生まれ、技術者として石川島造船所(現・IHI)に入社した土光さん。同社の関連企業・石川島芝浦タービンの社長に抜擢され、その後は戦後最大と言われた石川島重工業㈱と㈱播磨造船業の合併を指揮して初代社長に就任した。倒産の危機にあった東芝の再建に尽力した後、第4代経団連会長、そして1981年に鈴木善幸内閣の諮問機関として行政改革を行った「第二次臨時行政調査会」(通称・土光臨調)の会長も務めた。一介のサラリーマンから「財界の総理」(経団連会長の異名)に出世し、国家再建の任にも当たった気骨のある人物だ。
「彼氏/彼女ができる」のテーマで私がこの本を推す訳は、政財界で辣腕をふるった土光さんが、生涯を清貧に安んじたことにある。
 毎朝4時起床、法華経の読誦で一日が始まる。食事は、白米と汁物と自宅で栽培した野菜を摂った。好物はめざし。贅沢とは程遠い生活だ。通勤に車は使わず、日々満員電車に揺られた。月の生活費は3万円。私財の多くを社会に投げ打った。いかなる時も社員や国民の範となった。
 本書はそんな土光さんの語録集だ。「サラブレッドより野ネズミ」「我に百難を与えたまえ」「個人は質素に、社会は豊かに」――手にした5年前から折りに触れて読み返すが、魂を揺さぶられる言葉の数々は色褪せない。眼前に土光さんが浮かび、日本を憂え、つい怠け心をもつ私を叱っているようにさえ感じる。
 日本は、「もはや戦後ではない」と言われるほどの復興を遂げた。現在はデフレ不景と言われながらも、物や情報が溢れる豊かさを享受している。自戒を込めて言うが、多くの人が娯楽や快楽を求め、清貧に生きることの大切さを忘れてはいないだろうか。
無私に徹した土光さんの生き方に倣えば、自然と人が寄ってくる魅力ある人間になれる。これは決して大げさな言い分ではなかろうと思う。

K(編集者)

『清貧と復興』土光敏夫

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第三月曜日は、お題目に応えちゃう本を紹介させていただきます。

しばらくのお題は「彼氏/彼女ができる本」です。

※恋人が人生のすべてはありません。

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