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彼氏彼女ができる本『ベルゼバブの孫への話』

『ベルゼバブの孫への話』 G.I.グルジェフ著/浅井雅志訳 平河出版社 1990/8/5初版 本文計769頁

 スピリチュアルの元祖グルジェフの信者がバイブルと崇めるこの一冊は、月が地球から食物を供給してもらわなければならず、人類がその食物の製造者の役割を負わされた世界を舞台に書かれている。無論、人類はこの屈辱的な仕事を好まなかったので、宇宙中央委員会は人体に「クンダバファー」なる器官を移植し、永遠なる幻想をまさに現実と人類におもわせるようにした。まさに禅坊主などは、この幻想から醒めようと必死に修行しているといったところか。夢に過ぎぬ一期のなかで損得勘定や嫉妬をしているうちは、まず君の童貞くささは抜けないであろう。逆に、星の家畜に過ぎぬ君が女を遠ざけることができたならば、たちまちモテるようにこの惑星はできているのである。逆説的だけれども、夢のなかの恋愛ごっこにいつまでも現を抜かしていても仕方がないでしょうに。
 ところで、この本の主人公は宇宙人になる。私たち人類に、みっつしか脳を持たぬ三脳生物と憐みの眼差しを向けている老宇宙人だ。しかし、そんな三脳生物でも荘子のように、胡蝶の夢をみた自分が主人公なのか、はたまた人の夢をみている胡蝶が本来なのかわからなくなり、己も胡蝶もともに儚しと感じるときがある。これがわからなければ、眼をとじて、傍らにいる人とちょっと握手をしてみてほしい。きちんと互いの肘の角度が同じであれば、感覚的に相手とよく馴染んでいく。つまりはどこまでが自分の腕で、どこまでが相手の腕なのかわからなくなっていくとおもう。たしかな大人であったならば、じゃんけんのパーとグーで握手しても、たちまち馴染ませることができる。
 日本人は元来このような他者との調和感覚を重視し、躾としてきた。「身さえ美しければよし」とする躾という字は、国字になる。大人は知性からではなく、身体感覚から等しく育まれることを日本人はよく識っていたのだ。女にモテようと読書などせず、はやく大人の色氣をまとうことだ。

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