「悪いな岸田、遅れちゃって」 「こんばんは。お邪魔します先輩」 岸田がドアを開けると、そこにいたのはげんぞーと亀吉だった。 「遅いぞお前たち、こっちはすき焼き用意して待ってたってのに」 「バスが遅延してたんだ。まあ十五分ちょっとだ、気にすんなや」 「うわっここが岸田さんの家ですか、すごいですね…」 亀吉が感嘆の息をもらす。もともと大学生が一人暮らしをするというには狭いくらいの部屋。そんな岸田の生活空間を埋め尽くす、無数の怪獣フィギュア。古今東西あらゆる特撮に登
のらりくらりと生きているようでいても、時折奇妙なことに出会う。そういう話。 高校時代の体験が元になっています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ふと見ると、ワニがいた。 体長30センチほどの、小さなワニだった。静かな住宅街の道路脇に植えられた街路樹。その根元に、それはいた。 私は丁度その日の授業を終え、空になった弁当箱をカタカタ鳴らしながら帰路についているところだった。はじめそれを見た時、私は自分の目が信じられなかった。いつもの光景の中に、ワニ
べたついた海の香りは、潮風に乗って町中を支配していた。風は塩分を運び、ごみごみした小さな港町の至る所を錆び付かせる。ついには岸から離れたグラウンドまでやって来て、くるみの気分をジメジメさせるのだ。くるみはこのグラウンドで受ける体育の授業が嫌いだった。 くるみの通う中学校では、体育の授業はグループに分かれて受けさせられる。ただ一人の友達である風香は、くるみとは別のグループだった。たくさん友達のいる風香にとっては、くるみが同じグループにいようといるまいと変わりないかもしれな
自分が今ここでくしゃみをした事。100年前どこかの誰かが猫をなでた事。100万年前どこかのおサルさんが愛し合っていた事。 みんな確かにそこに「あった」のに、記憶の彼方に埋れてしまった出来事はもう、ないのと同じなんだろうか。 そう考えると1秒前も1万年前も、みんな等しくもやがかかっていて、自分がさっきくしゃみをした事も、愛し合っていたおさるさんの存在も、もう宇宙のどこを探しても見つからないのかもしれない。 膨大にあった小さな出来事は、すごい速さでなくなっていく。 自分