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核融合ロケット研究(13)/模擬実験

図1磁気ノズル実験・前野

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。元々は、毎年研究室に入ってくる新入生への研究紹介になるかと思い書き始めした。もし、それ以外の方にも興味を持っていただければ、幸いです。

 模擬実験について紹介します。本当は森田さんが適任だと思いますが。
Hybrid codeを回して、いろんなアイデアを提案するのは、それはそれで楽しいですが、どれだけ妥当性があるのかが問題になってきます。そこで、コードの妥当性を検証するためにも、模擬実験が必要となっています。残念ながら、核融合プラズマは利用できませんので、我々は、レーザー生成プラズマを利用しています。ただ、レーザーエネルギーは、我々の研究室では、0.6J程度、広島大学では、数J、(阪大EUV 10J, 今はshut-down) 、もし阪大激光が使用できれば、30kJは、使えますが、これは、実験計画書を提出しても、ほとんど認められせん。
 もう一つ、レーザーを使用しますと、ノイズが大きく、もしコイルに電流を流す電磁コイルを使用しますと、このコイルも我々のではパルス的に磁場を生成しますので、ノイズが生じ、なかなか良い実験データが得られません。なので、磁場発生には、永久磁石を使ったりするのですが、ノイズの問題は解決しても、生成磁場が弱く、磁気ノズルが構成されにくいのが欠点です。
磁気ノズルで推力が実際に発生したのを、最初に観測したのは前野くんの論文ですが、その時は、永久磁石を用いました。図1参照。
Akihiro Maeno, Naoji Yamamoto, Hideki Nakashima, Shinsuke Fujioka, Tomoyuki Johzaki, Yoshitaka Mori, and Atsushi Sunahara, "Direct measurement of the impulse in a magnetic thrust chamber system for laser fusion rocket ," Applied Physics Letters 99, 071501 (2011)http://art.aees.kyushu-u.ac.jp/research/LFR/lfr-publications.htm

実験データは、主に、スラストスタンドで、impulse bitを計測し、それをシミュレーションと比較することになります。レーザーでプラズマを生成していますので、ターゲットの蒸発・アブレーション過程をシミュレーションで解かないといけないので、それには砂原さんが開発した、輻射流体コードSTAR2Dを用いています。アブレーションでは、薄い層で、粒子密度が、5桁以上変化しますので、それを解析できるかがポイントです。(小特集5章参照)ここで得られた流体の速度を粒子速度に変換し、hybrid codeに渡して、シミュレーションを行い、

Impulse bit= Fxt =Σmvz(速度のz成分)

を求めて、実験データと比較します。

これは、粒子の和を取りますので(積分値)、今の所は一致するようになってきています。(逆を言えば、粒子の空間的速度分布など(微分値)は、まだなかな合いません。)詳しくは、小特集、6章枝本くんの記事を参照ください。

なかなか、実験の機会が少ないのが悩みです。もちろん、そう簡単に実験できるのではなく、その前の実験・計測装置の製作、校正などの準備が、そして実験後のデータ整理・解析が大変です。

小特集レーザー核融合ロケットの原理実証研究(プラズマ・核融合学会誌vol97 2021/11)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2021_11/jspf2021_11-jp.pdf

 今は、IHI伊勢さんのおかげで、ほぼ定期的に、NASA/Adams+Univ. Alabama/Jasonさんのグループとミーティングを行えるようになりましたが、彼らも今は、彼ら自身のシミュレーションコードSPH-MHD codeの妥当性の検証に関心が移ってきていますので、彼らの実験・議論はこちらにとっても参考になります。彼らのSPH codeで、Nagamine model(以下の論文、Fig.1参照、図2)の計算を行い、我々のhybrid codeとの比較も行っています。磁場により、プラズマがマッシュルーム型になり、反射されるのが確認されています。

図2 Namine model

Yoshihiko Nagamine and Hideki Nakashima, "Analysis of Plasma Behavior in a Magnetic Thrust Chamber of a Laser Fusion Rocket ,"Fusion Science and Technology 35, 62-70 (1999)
それと、彼らは、磁気ノズルには、核融合ロケット研究(11)/設計ノート2で説明しました、いわゆるaxial nozzleに自信を持っています。
図3参照。JrxBθ=Fzのローレンツ力を利用。多数のコイルの組み合わせ。コイルに一周電流を流すのなら、コイル内側の磁場が強くなり、外側の磁場の弱いところにプラズマを置く(右下の赤い点)のは、ちょっと理解できませんが。推進効率も我々の半分の30%くらいです。しかし、新しいアイデアが今からでも出てくる可能性があるのは、楽しみです。

図3 axial nozzle/Jason

今まで、我々は、ほとんど議論する相手もなく(ロシア人科学者とは共同研究はしてきましたが)、勝手気ままに(細々と)シミュレーションの結果をもとに、色々と提案してきましたが、今、こうしてNASAの連中と議論できるようになり、刺激的な反面、追い越され、離されていくのではとの思いも湧いてきます。何しろ米国には、以前からずつと核融合ロケットの研究グループは幾つもあり、NASAのfundをもらい、研究の伝統があります。資金、マンパワーの面でも随分差があります。日本ではまだ、JAXAにしても、核融合ロケット、それ以前の原子力ロケットについても手が回らないようです。
将来国際共同研究になっても、日本からどれだけ寄与できるのか心配な面があります。AdamsさんのPuFFも我々のレーザ型も、パルス型核融合に分類できますで、磁気ノズルでは特に協力できるところはあると期待しています。



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