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16号の別れ

「ヘルメットはバイクに合わせるとかじゃなくて好きな色を選べばいいんです。世界を守るなんとか戦隊じゃないんだから」

ヘルメット選びに難儀するわたしにK氏が言った。まだバイクに乗り始めたばかりだったわたしに目から鱗の発言だった。反面バイク通を自任していた知人はクラシカルなわたしのバイクを見てヘルメットもクラシック風にしないと具合が悪いし、メーカーは国内の某ブランドに限ると豪語している。

バイク用品店のスタッフであるK氏はおおまかなわたしの意向を聞くと、知人が推すブランドのライバルメーカーの製品を提案してきた。二社の製品へのアプローチの違いを明確に語り、一方は信仰のレベルで安全性を追求し、他方は合理的に安全を確保するという違いをわたしに教示した。納得したわたしはK氏提案の商品の購入を決めた。知人の発言は忘れていた。

K氏はたいていバイク用品店の奥のカウンターにいた。ツーリングのことからバイクのカスタムの方向性まで、多くを語り合った。うまい町中華も教わったし、ライディングスク-ルを紹介してもくれた。わたしがライダーになって約10年が過ぎた。その間K氏が担ってくれた役割はかなり大きい。

いつも国道16号線近くのバイク用品店に行けば、定位置にいる安定の存在だった。そのK氏は9月で店を去ると急に告げてきた。親の介護のためらしい。歳月はお互いの環境を変えていた。もっとたくさん聞きたいことがあった。わたしのバイクライフは少し寂しくなる。

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