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〜第1章 お金はあとからついてきません〜▷忙しくなったら、もっと人を雇えばいい


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【前回までのお話】
会社のお金は使い放題。調子に乗ってレクサスまで買う

▲忙しくなったので、無計画に人を増やす

当時の僕は、たくさん人を雇っている会社は単純にかっこいいと思っていました。たくさん人を雇う甲斐性のある会社は、売上も大きく儲かっているに違いないと。

当時、IT系のベンチャー起業が借金をしながらも、先行投資として人材を確保し、大きな売上を上げていき、最終的には上場していくような成功のストーリーも、僕をさらに勘違いさせました。
パナソニックの創業者である松下幸之助さんは「事業は人なり」という言葉を残しています。その言葉を知って、僕はこう思いました。

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「人が辞めれば、もっと雇えばいい。代わりはいくらでもいる。ガンガン売上を上げていくぞ!」

そんなことを考えながら、どんどん人を雇っていきました。
松下幸之助さんの言葉の本当の意味は、人を育て、人を活かしていくことが経営の要ということのようですが、当時の僕は、単純に「人をたくさん集めたほうがいい」と理解していたのです。

それに、僕の場合、マンパワーが足りなくなって、雇わざるを得なかったというのが正直なところで、仕事が増えて人手が足りなくなるたびに、無計画にアルバイトを雇っていきました。
しかも、人件費を出せるか出せないかではなく、仕事が回るか回らないかというのが人を雇う基準です。

▲気づいたら、引き返せないドツボにはまる

アルバイトの給与が月に10万円ちょっと、1人あたり年間120万円以上のお金がかかります。
でも、当時はそんなこともよく考えていませんでした。出荷が遅れたら、お客さんからお叱りを受けるので、そうならないためには人が必要だと考えたんです。
僕の会社で、売上を生み出す仕事をしている人は1人だけ。はい、僕1人だけなんです。注文受付の処理をする人が2人。梱包作業をする人が5人いました。総勢、僕を含めて8人です。

僕の商売は、閑散期と繁忙期で、売上の差が月商で10倍は軽く開いてしまうというビジネスモデルでした。閑散期は月の売上が300万円程度でも、繁忙期には3000万円を超えます。

閑散期と繁忙期で同じ人数で仕事を回していくことは不可能なため、ある程度、繁忙期に合わせた人数を雇っていました。繁忙期のピークは8人では足りないので、臨時でアルバイトを募集して、総勢13人くらいで仕事を回していたのです。

本音をいえば、もっと少ない人数で常に仕事を回していきたいと思っていましたが、繁忙期は仕事量があまりにも多過ぎて、常にフルスピードでみんなが動いている状態です。

その一方で、閑散期は困ったことに何もすることがなく「暇だねえ」と言いながらただ時間だけが過ぎていきました。人件費がどんどん垂れ流されていくような状態です。

かといって、一度雇ってしまったからには、忙しいときにだけ出勤を増やして、暇なときはお休みしてもらうなんてこともできないので、「この状況がどうにかならないかなあ……」といつも思っていました。

人件費のコントロールが及ばない状態が続いた結果、しだいに僕の「仕事をしている意味」も変わっていきます。

雇ったスタッフの給与を払うために、売上を上げなければと思うようになりました。給与を支払うという義務感だけで、売上を上げる努力をし始めていったのです。

本来であれば、「会社をもっと成長させよう」「もっと給料をよくしていこう」「もっとお客さんに喜んでもらおう」などという目的のために、もっとがんばって働こうという気持ちになると思います。

でも、人をどんどん雇っていった結果、雇った人の給与を稼ぎ出さなくちゃいけない、というのが目的に変わっていきました。
最初は会社の成長を願って人を増やしていったのが、自分でも気づかないうちに、人件費を支払うために売上を上げていかなくてはいけなくなるとは。

一緒に働いてくれているスタッフのことは仲間だと思っているし、よりよい社内環境を整えようと思っているし、もっと給料を払ってあげたいと思っているし、やりがいも提供したいと思っているんです。

でも、こういう状況になると現実のほうが自分の心を支配してきて、とても失礼な言い方になってしまいますが、雇いたくて雇っているというよりも、雇わざるを得なくて雇っているという状態になっていきました。

こんなジレンマを、売上が上がっていくたびに、そして、新しいスタッフを迎え入れるたびに感じていました。どこかで、この負のスパイラルを断ち切って修正したい。
けれども修正できない。ドツボにハマっていくとは、まさにこのことです。

▼次回
第1章 お金はあとからついてきません
高い授業料を払ってわかったのは「お金はあとからついてこない」

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▼この本の関連note

【この本のもくじ】

はじめに ~世にも奇妙な花屋の物語~ 案内人 田中靖浩(公認会計士) ●2020/2/7公開●

第1章 お金はあとからついてきません
売上はあるのに、なぜお金が足りなくなるの? ●2020/2/10公開●
お金が足りなくなったら、銀行に借りればいい ●2020/2/11公開●
「税務会計の知識」と「経営の知識」は別 ●2020/2/12公開●
決算書が読めなくても、年商1億円に ●2020/2/13公開●
会社のお金は使い放題。調子に乗ってレクサスまで買う●2020/2/14公開●
▷忙しくなったら、もっと人を雇えばいい●2020/2/17公開●
▷高い授業料を払ってわかったのは「お金はあとからついてこない」
▷第1章を読み終えた読者へ

第2章 「数字」が読めると 本当に儲かるんですか?
▷なけなしのお金を払った最後の一手
▷「経費」と「費用」って違うんですか?
▷「儲けるための会計」を学ぶ
▷会社が続くために大切なのは「利益」
▷「限界利益」という「魔法のメガネ」
▷会社の「儲けパワー」
▷決算書で見るところは2つだけ
▷儲けパワーの正体は「限界利益率」
▷第2章を読み終えた読者へ

第3章 「儲けパワー」を高めるには、 どうしたらいいんですか?
▷黒字になるか、赤字になるかの分岐点
▷「こうしたら、こうなる」というシミュレーション
▷「値上げ」によって、限界利益率はどう変わる?
▷「値下げ」によって、限界利益率はどう変わる?
▷「商売」とは、誰かに喜んでいただいて、その対価を得ること
▷第3章を読み終えた読者へ

第4章 「値上げ」をしたら、 天国と地獄を見ました
▷「値上げ」をしたら、お客さんが来なくなりました
▷会社の利益に貢献する商品、しない商品
▷値上げが、会社の利益に与える影響
▷値上げするかどうかの適切な判断
▷第4章を読み終えた読者へ

第5章 「数字」が読めると 本当に儲かりました
▷なぜ、会社にお金が残らないのか?(資金繰り)
▷やっぱり広告を出せば、もっと儲かるんだろうか?(費用対効果)
▷やっぱり忙しくなったら、人を増やしたほうがいいですか?
▷計画は「ほしい利益」から立てる
▷計画が順調かどうかは、どう確認すればいい?
▷利益を出すために、できること
▷できるだけ高く売るか、できるだけ安く仕入れるか?
▷ずっと赤字体質の会社が、なぜ黒字が続くようになれたのか?
▷「数字」に想いを乗せよう
▷第5章を読み終えた読者へ
▷おわりに ~「自分だけのため」から「人のため」に儲けたい~ 古屋悟司

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