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注射どんだけ打つねん

【2010年12月10日】4か月にならんばかり

お茶漬けが好物な僕の横で、どうやら4ヶ月の娘は注射漬けの日々らしい。

小学生の頃、「北斗の拳」と呼んでいたBCGに始まり、色んな種類の注射をとにかく腕や太ももに、その筋の人のように打ちまくっている。心配でならない。

実は、娘は心臓に疾患を抱えて生まれてきた。それが分かったのは生後4日目だった。奥さんと一緒に医者に呼ばれて、レントゲンを見ながら説明を受けた。

なんか現実感のないドラマのような時間だった。

初めて奥さんの前で涙を見せた。毎日「よくなりますように」と神社にお祈りもした。その後、自然と心臓にあった小さな穴は塞がり、今では健康体そのものである。治ったのだ。

神様はいた。無宗教のくせに、そう思った。

この「心臓の小さな穴」があったために、心臓に疾患のある乳児は無料で打てる注射というのがある。これがなんと一本15万円という上物。医者は「ひぶ」と発音して呼んでいたが、どうゆう字をあてるのか僕はよく知らない。とにかく15万円也。これを打てば喘息とかそうゆう病気になり難いというわけで、打ちたい人は15万円掛る。それがタダ。半年に渡って毎月打つべきものらしく、総額90万円である。これがタダ。

なんと良い響きなんだろう、「タダ」。

金の話ばかりで嫌気がさして来た方もいるだろうが、育児とお金の問題は切っても切れないナイーブな問題。娘は他にも「なんとか混合」とか、僕が名称を覚えられない注射をバンバン打っている。赤ん坊はとにかく注射漬けになるらしいことを知った。

そんなある日、娘にインフルエンザをうつしてはいけないということで、奥さんからの命令によりインフルエンザの予防接種を打つことになった。小学生以来だった。急に自分に打席が回ってきた。注射は完全に他人事だと思っていたのだ。病室というバッターボックスに入り、腕をまくり、先生の前に腕を差し出した時、僕は明らかに緊張していた。相当に顔がこわばり過ぎていた。先生が「ちょっと痛いですからね、がんばりましょうね」という言葉を掛けて下さった。涙が出そうになった、自分が情けなさ過ぎて。娘は小さな体で、こんな注射をバンバン打っているのか。

あいつ、小さいくせにがんばってんなぁ。

〈文・フルタジュン〉

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