見出し画像

なぜコンプライアンス研修は”つまらない”のか? 脳科学が解き明かす受講者の心理

「コンプライアンス研修」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?
多くの人が「難しい」「つまらない」「眠くなる」といったネガティブな印象を抱いているのではないでしょうか。 実際に、多くの企業で研修担当者から「コンプライアンス研修は、受講者の反応が薄く、効果測定が難しい」という悩みを耳にします。

また、受講者の多くからは、コンプライアンス研修は「つまらない」「こんな時間があれば仕事をさせてください」などという声も寄せられます。

今回は、先日、グローバルビジネス・コンプライアンスコンサルタントの大西徳昭さんのVoicyでゲスト登壇した際にお伝えした「なぜコンプライアンス研修は”つまらない”のか? 脳科学が解き明かす受講者の心理」を特別にnote用にバージョンアップした内容でお届けしたいと思います。


脳科学で「つまらない」を克服! コンプライアンス研修の革新に挑むJCXAS

これまでのnoteでも時折お伝えしていますが、コンプライアンス研修が「つまらない」と感じてしまう、その原因は、人間の脳の仕組みに深く関係しています

私たちの脳は、常に新しい情報や刺激を求めています。 しかし、多くのコンプライアンス研修は、法律や社内規則などの説明が中心で、内容が難解で、毎年同じような内容の繰り返しになりがちです。 このような刺激の少ない状況では、脳は飽きてしまい、眠気や退屈を感じてしまうのも無理はありません。

では、このようなコンプライアンス研修を「面白くする」には、どうしたらいいのでしょうか?

私はFuture Compass Labの活動とはもう一つ別のコア活動として、JCXAS(日本コンプライアンストランスフォーメーション協会)のコアメンバーとして活動しています。

このJCXASという団体は、「コンプライアンスについて共に耳を傾け、問い、話し合う」をモットーに、働く人の幸せと、組織が叶えたい未来を目指して活動しています。そこでは様々な活動をしていますが、その一つが、テーマごとに有志が集まり、少人数で1年間じっくりと研究する「ワーキンググループ」です。

私はそのワーキンググループ(以下WG)活動の中で、「コンプライアンス研修×行動・脳科学WG」に参加し、脳科学の視点を取り入れながら、より効果的で楽しいコンプライアンス研修をメンバーと一緒に探求しています。

具体的には、

• 受講者の学習意欲を高める方法
• 記憶に残り、知識として定着させるための秘訣
• 研修で得た知識を実務で活かせるようにするための工夫

などを、世界中の研究論文や様々なデータや科学的な根拠に基づいて探求しています。

そして、私はWGでの活動を通じて、ある重要なことに気が付きました。

それは、「つまらない」コンプライアンス研修を変えるには、研修担当者自身が、受講者である人間の脳や心理について理解を深めることが不可欠だということです。

企業で活躍するコンプライアンス研修担当者が、人間の心理や行動・脳科学に基づいた「効率的かつ効果的な学習テクニック」を身につければ、研修は劇的に変化するでしょう。

受講者が「つまらない」と感じない、記憶に残る、そして行動変容を促す、そんな研修を創り出すことができるのです。

コンテンツ、伝え方、そして受講者への働きかけ方… 実は、コンプライアンス研修にはまだまだ多くの伸びしろが眠っているのです。

続いては、このJCXASのコンプライアンス研修×行動・脳科学ワーキンググループとしての活動を通じて得た知見を基に、「コンプライアンス研修がつまらない」と感じる最大の理由を、具体的な事例を交えながらお伝えしていきます。

「コンプライアンス研修がつまらない」と感じる最大の理由

企業のコンプライアンス研修が、正直つまらないと感じる最大の理由。それは、実は研修担当者にあるのかもしれません。多くの企業では、研修担当を専門家ではない“研修の素人”が担当しているケースが多いのです。

少し厳しい言い方になってしまいますが、コンサルタントや専門家を除きJCXASに参加しているインハウスでコンプライアンス研修を担当しているメンバーでさえ、「研修のプロ」と自負している方は多くありません。

なぜ“研修の素人”が担当すると、つまらない研修になってしまうのでしょうか?  ここでは、その理由について詳しく解説していきます。

この話を分かりやすく例えるなら・・・
あなたはランチに仲間とイタリアンを食べようという話になりました。ミシュランの星付きレストランのシェフのランチを食べたいか、あなたの隣に座っている日頃包丁なんて握ったこともなさそうな同僚の作った素人のイタリアンのランチ。レタスとキャベツが見分けられない同僚もいましたが・・・同じ時間、お金をかけるなら、どちらを楽しみたいですか? 

同じ時間とお金をかけるなら、やっぱりプロのランチを楽しみたいですよね。

企業研修も同じです。 多くの場合、研修担当者は研修のプロではありません。 限られた時間や予算の中で、素人なりに頑張っているのですが、どうしても「つまらない」と感じてしまう研修になってしまうことが多いようです。

では、なぜ私たちは「つまらない」と感じてしまうのでしょうか? それは、人間の脳や心理メカニズムが深く関わっているのです。

私たちの脳は、 新しい情報や刺激 、そして 感情に訴えかけるもの に対して強く反応します。 つまり、退屈な講義形式や、ありきたりな内容の研修では、脳は活性化せず、「つまらない」と感じてしまうのです。

例えば、テレビの番組を想像してみてください。 予め決められたプログラムからしか選択できないテレビをつまらないと感じ、結局、Netflix やYouTubeで紹介される関連動画をついつい見てしまうのは、まさにこの脳の刺激を求めて反応する性質を利用して作られた仕組みに乗せられている結果と言えます。

さらに、 ドーパミン という神経伝達物質も重要な役割を担っています。

ドーパミンは、 快感や意欲、学習 などに深く関わっています。 研修内容が面白く、私たちにとって「 reward (報酬) 」と感じられるものであれば、ドーパミンが分泌され、 積極的に学習しようとします。 逆に、つまらない研修ではドーパミンが分泌されず、 集中力も低下し、学習効果も薄れてしまうのです。

また、心理学の観点から見ると、「 自分事として捉えられない 」ことも「つまらない」と感じてしまう大きな要因です。

「自分に関係ない」「自分には必要ない」と感じてしまうと、人は興味や関心を失い、内容が頭に入ってきません。結果として、「つまらない」と感じてしまうのです。

例えば、「情報セキュリティ」の研修で、『シンクライアント関係のお知らせです。情報セキュリティレベル上げつつ、多様な環境下で仕事をして頂くためにわが社もVDIからDaaSへと変更しています。来月からはDaaSでログインしてください』など説明されても、シンクライアント? VDI? DaaS? これらの言葉の意味、はたまたそれらを使って仕事をするそれが自分の仕事や生活にどう関係するのか分からなければ、なかなか集中できませんよね?

つまり、コンプライアンス研修を「面白くする」ためには、脳に刺激を与え、受講者一人ひとりに「自分事」として捉えてもらうことが重要なのです。

このように「つまらないと思う心理」のメカニズムは複雑ですが、研修担当者は限られた時間や予算の中でも、工夫次第で素人が作る研修を「美味しいイタリアンならぬ美味しい研修」に変えることは可能です。

では、どんな工夫をすれば良いのでしょうか?
つづいて具体的な方法を3つご紹介したいと思います。

素人でも研修を「美味しく」する3つの工夫

「研修=つまらない」というイメージを覆し、参加者にとって有益で、記憶に残る、まるで「美味しいイタリアン」のような研修を作ることは、素人ででも工夫次第で可能です。

ここでは、研修を「美味しく」するための3つの秘訣をご紹介します。

これらのポイントを押さえれば、あなたも「素人料理」から脱却し、プロ顔負けの「美味しい研修」を提供できるようになるでしょう。

1.研修内容を「自分ごと」化する
このNoteの中段で心理学の観点から、「自分に関係のある情報ほど、興味を持ち、記憶に残りやすい」という話をしました。このテクニックをほんの少し活かして研修内容を参加者にとって「自分ごと」と感じられるような内容にすることで、学習効果を高めることができます。

例えば、情報セキュリティ研修であれば、身近なスマホやタブレットを題材に、「まだ〇〇してない?知らないと怖い、○○の落とし穴」といった、YouTubeのタイトルのようなキャッチーなフレーズで注意を惹きつけ、日常生活に潜むリスクを具体的に示すことで、参加者の脳に「これは自分にとって重要な情報だ」と認識させることができます。

2.五感を刺激する
視覚資料だけでなく、音や動画、グループワーク、ロールプレイングなど、様々な方法を取り入れることで、脳への刺激を増やし、飽きさせない工夫も重要です。

特に、ちょっとしたゲームやクイズを研修の冒頭や中弛みしてきそうな時間帯に取り入れると、気分転換しつつ楽しみながら学べるので、ドーパミンが分泌され、学習意欲を高める効果も期待できます。これは、受講者だけでなく、意外に講師側も楽しめるので本当におすすめのテクニックです。

3.双方向のコミュニケーションを重視する
一方的な講義ではなく、参加者からの質問を促したり、意見交換をしたりする時間を設けることで、脳はより深く情報処理を行います。

具体的には、脳への刺激に対する反応サイクルが活性化し、脳内の深いところに格納していた情報までアクセスし、様々な神経回路を繋いで深い情報処理が行われます。

ただし、研修を提供する側にとっては、この刺激を生み出すためのファシリテーションスキルを習得するのが一番難しいかもしれません。ファシリテーションとは、会議や研修などの場で、参加者の発言や議論を促進し、合意形成や目標達成を支援する技術のことです。これは、練習を重ねていくことで上達する、まさに筋トレのようなものです。

まとめ:明日からできる!「美味しい研修」を作るための第一歩

ここまで、コンプライアンス研修が「つまらない」と感じられる理由を脳科学の視点から紐解き、JCXASの取り組みや、研修を「美味しく」するための具体的な工夫をご紹介してきました。

「素人料理」のような研修から脱却し、プロ顔負けの「美味しい研修」を提供するには、一体どうすれば良いのでしょうか?

その答えは、実はシンプルです。

明日からできる、ちょっとした工夫と、継続的な改善こそが、「美味しい研修」への第一歩となるのです。

研修内容を一方的に伝えるのではなく、受講者の経験や意見を共有する場を設ける。難しい専門用語を避けて、分かりやすい言葉で説明する。あるいは、研修にゲームやクイズなどの要素を取り入れて、飽きさせない工夫をする。

このような小さな積み重ねが、受講者の心を動かし、記憶に残る「美味しい研修」へと繋がっていくのです。

そして、これらの工夫を実践していく中で、研修担当者自身の中に「よし、美味しい研修を提供できるぞ!」という自信が芽生えてくるはずです。

自信に満ち溢れた料理人の作る料理が美味しいように、自信を持って研修を提供する人の言葉は、受講者の心に響き、行動を促す力を持つのではないでしょうか。

料理と同様に、研修にも「レシピ」は存在しません。しかし、今回ご紹介したポイントを参考に、受講者の立場に立って、日々改善を続けることで、必ず「つまらない」研修から脱却し、「美味しい研修」を届けられるはずです。

さあ、明日から、これらの秘訣を研修に取り入れて、受講者も満足する、記憶に残るコンプライアンス研修を創造していきましょう!


【ご参考】
このNoteを書くきっかけとなったVoicyのリンクはこちらです。
もし興味があれば聴いてください♪


いいなと思ったら応援しよう!