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聖人と美術・聖トマス

こんにちは。今回は使徒トマスです。ここで十二使徒のご紹介は終了。次からは他の聖人さんをご紹介したいと思います。
「12使徒なのに6人しか紹介してないよね。」とのご指摘をいただきそうですね。全くそのとおり!
十二使徒のうち聖ヨハネと聖マタイは四大福音書記者として別の機会にご紹介します(現在では「マタイの福音書」を書いた方は十二使徒の聖マタイではないとも言われていますが、歴史的に福音書記者として扱われてきたのでここでもそのように扱います)。
その他の方々については「目立たない使徒のエンブレムは一定しない傾向にあるので注意を要する」(キリスト教美術シンボル事典「十二使徒」の項。大修館書店)ということもあり、わかりやすいアトリビュートをご紹介できないので省略させていただきます(あっ。使徒シモン(熱心党のシモン)はノコギリ持ってることが多いかな。このシリーズをいくつか呼んでくださった方は何故ノコギリか・・想像つきますね?)

では、聖トマスにご登場いただきます。

聖トマス(?~72)

聖トマスはイエスの直弟子である十二使徒の一人。使徒トマスとも呼ばれます。
聖トマスと言えば、「疑い深いトマス」として知られています。この呼び名は、「トマスが磔刑の後に復活したイエスと会ったとき、目の前にいる人物がイエス本人だとは信じられず、イエスが磔刑の時に受けた脇腹の傷を指で確認してようやく納得した」というエピソードから来ています。絵画で聖トマスが描かれるのは大抵このシーンですね。

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トマスの「疑い深いエピソード」はもう一つあります。この世での生を終え天に召された聖母マリアは、トマスが疑い深いことをよく理解していたので、天に昇った証拠としてわざわざ天から自分の服の帯をトマスに落としてあげた(幻視でトマスの前に現れて手ずから渡したというバージョンも)という伝説です。

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この聖トマス、宣教にインドまでいったといわれており、インドやパキスタンのキリスト教徒の守護聖人です。

彼のもとの職業は建築家であったともいわれ、曲尺(かねじゃく)がアトリビュートになっていることもあります。曲尺には「きちんと(測って)確認するまでは信じない」と意味もあり「疑い深い聖トマスが確認しているのでイエスの教えの正しさは保証されていますよ」という示唆も含まれているとのことです。このような訳で聖トマスは建築家の守護聖人でもあります。建築家としての聖トマスのエピソードにはこんなのがあります↓。

聖トマスがインドに滞在中、その地の王が立派な宮殿を建てることができる建築家を探していた。そこでトマスは自ら申し出てその建設を引き受けた。王は費用を支払った後、しばらく留守にしていたが領地に戻ってきても宮殿はどこにも見当たらない。トマスを問いただしてみると、彼は宮殿の建設をすることなく宣教に時間を費やし、建設費用はすべて貧しい人に分け与えてしまっていた。そしてトマスは王に言った。「あなたの宮殿は天の国にあります。」
この答に王は腹を立てトマスを死罪にしようとした。一方、ちょうどそのころ、王の弟が亡くなった。弟は死後天の国に行くと、そこでトマスが王のために建てた立派な宮殿を発見した。そののち弟は天から再び地上に戻ることを許されたので、彼は兄に天の国に建てられた王の宮殿のことを話し、その宮殿を買い取りたいと申し出た。王は弟の申し出を断り、トマスを釈放したのち弟や家来と共にキリスト教に改宗した。

建設費用を受け取っておいて「宮殿は天の国に建ててあるので、ここにはないです」というのは現世的には完全にアウトですね。でも、キリスト教的には天の国に宮殿が建っていることがいることが確認できて依頼主も納得したので、めでたしめでたしというところでしょうか。

聖トマスは最終的にインドのチェンナイで殉教します。槍で処刑されたということで、槍もアトリビュートとなっています。槍の方が曲尺より聖トマスのアトリビュートとしてポピュラーな気がします。
でも、槍は他の十二使徒のアトリビュートと被ることがあるんですよね。聖マティアとかタダイ・ユダ(聖ユダ。イエスを裏切ったイスカリオテのユダとは別人です)とか。この方たちは受難具(殉教の際に使われた武器など)に諸説あるので、聖トマス同様、槍を持っているケースがあります。剣や棍棒などの場合もありますが。「目立たない使徒のエンブレム(アトリビュート)」が一定しない典型的な例ですね。

では作品にGO!(断りのない限り、ウィキメディア・コモンズに飛びます)。

「疑い深いトマス」ドゥッチオ・ディ・ブオニンセーニャ(シエナ大聖堂祭壇画「マエスタ」より)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The-Maesta-Altarpiece-The-Incredulity-of-Saint-Thomas-1461_Duccio.jpg?uselang=ja

「疑い深いトマス」カラヴァッジョ(痛そうです。)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Caravaggio_-_The_Incredulity_of_Saint_Thomas.jpg?uselang=ja

「聖母の被昇天」パルマ・ベッキオ
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Accademia_-_Assumption_of_the_Virgin_by_Palma_il_Vecchio.jpg?uselang=ja



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