漫才「ボケ」

A「実は俺、最近刑事ドラマにハマっててさ」

B「ほうほう」

A「いつか自分でも出てみたいなーと思ってるんだよね」

B「あー、いいね」

A「だからちょっと、今日はここで練習させてもらえないかな?」

B「おお、構わないよ」

A「じゃあ俺が聞き込みに来る刑事やるから、お前は目撃者やって」

B「はいはい」

A「…あのー、すみません、警察の者ですが」

B「警察?何かあったんですか?」

A「実は昨日の深夜、近くの公園で殺人事件がありまして」

B「殺人?怖いなあ…」

A「何か不審な人物を見たり、物音を聞いたりしませんでしたか?」

B「うーん…あっ、そういえば12時頃、見知らぬ男が歩いているのを見ました」

A「本当ですか?男の服装は?」

B「黒っぽい服を着てました」

A「なるほど…身長は?」

B「170cmくらい」

A「体型は?」

B「少し痩せてましたね」

A「では髪型や顔の特徴は?」

B「あー、すみません、暗かったのでそこまでは…」

A「そうですか、貴重な情報ありがとうございます」

B「いえいえ、早く捕まるといいですね」

A「はい……いや、うーん、ちょっとやめていい?」

B「どうした?」

A「あのー、あんまりこういうの言わない方がいいと思うんだけどさ」

B「うん」

A「お前ってそのー……ボケじゃん?」

B「そうだね」

A「じゃあなんで一回もボケないの?」

B「ん?」

A「もっと色々間違えたり失敗してくれないと、俳優じゃないんだから…」

B「あれ?言ってなかったっけ?」

A「え?」

B「俺、もうボケられないよ?」

A「ボケられない?」

B「そう、ボケられない」

A「何?どういうこと?」

B「あのー、俺、この前お婆ちゃん家に行ってきてさ」

A「ほう」

B「お婆ちゃん一人暮らしで寂しそうだったから、元気付けてきたのよ」

A「うん」

B「それで仕事の話とかしてたら、帰り際に言われたんだよね」

A「何て?」

B「仕事で成功なんてしなくていい、お金持ちになんてならなくていい、ただ人に迷惑をかけず、真っすぐ正しく生きていきなさい、って」

A「素敵なお婆ちゃんだね」

B「そこでお前に聞きたいんだけどさ」

A「うん」

B「ボケるのって、正しくないよな?」

A「え?」

B「わざと間違えたり失敗するのって、真っすぐ正しいことじゃないよな?」

A「いや…」

B「だから俺、もう二度とボケられないわ」

A「いや別にそういう話じゃないだろそれは」

B「お婆ちゃんとの約束、破れないからさ」

A「そういうつもりで言ったわけじゃないと思うぞ、お婆ちゃんも」

B「とにかく俺はもう絶対にボケない」

A「迷惑かかっちゃってるのよ」

B「絶対にボケないんだ!」

A「そのせいで人に迷惑かかっちゃってるのよ」

B「え?誰に?」

A「俺だよ、お前がボケなきゃ漫才できないんだから」

B「いや、それならお前が代わりにボケればいいだろ」

A「俺がボケる?」

B「そうすれば漫才できるだろ?」

A「じゃあ何?お前がツッコミになるってこと?」

B「え?」

A「ボケとツッコミを入れ替えるってこと?」

B「あれ?言ってなかったっけ?」

A「何を?」

B「俺、もうツッコめないよ?」

A「ツッコめない?」

B「そう、ツッコめないよ?」

A「何?今度はどういうことだよ?」

B「あのー、俺、この前お爺ちゃん家に行ってきてさ」

A「お爺ちゃん家?」

B「それで畑仕事を手伝いながら、人間関係の悩みとか話してたんだけど」

A「うん」

B「そしたら帰り際にこう言われたんだよ」

A「何て?」

B「人の間違いや失敗を受け入れられる優しい人間になりなさい、って」

A「いや…」

B「だから俺、もう二度とツッコめないわ」

A「いやだからそういう話じゃないだろこれ」

B「人のミスを一々指摘するなんて、全然優しくないもんね」

A「人のボケを放置する方が優しくないのよ」

B「この教えもちゃんと守らないとな」

A「あとお前のお爺ちゃんとお婆ちゃん、どっちも帰り際に良いこと言うけどめちゃくちゃ別居してんじゃねえか」

B「まあとにかく、俺はもうボケもしないしツッコミもしないから」

A「いやー、困るって、そんなのまともに漫才できないじゃん」

B「そうだね」

A「それじゃあお前これからどうするんだよ?」

B「うーん……あっ、良いこと思い付いた」

A「え?」

B「俳優になって刑事ドラマ出るわ」

A「いや結局それかい、もういいよ」



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