アウトライナーで小説を書く為の試案
私は時折り、小説を書く。
その際の道具の内で一番、使い心地が好いのは、紙と、それに文字を書き付けるお気に入りの筆記道具だ。
今、使っているキーボードの打ち心地も、悪くは無い。
しかし、自分の頭が文章を書いているのでは無く、この手で文字を書く時の感触が文章を生み出している様な気になる事があり、更には、文章を書こうとしても脳裏に何も見えず、自分の指に伝わる文字書きの感触無くしては何も書けない様な感覚迄を抱《いだ》く事がある。その様なもの迄、覚えてしまうと(その、快感と喪失感)、手でものを書くと言う事に対して、そう言う評価になる。
とは言え、短いものならいざ知らず、長い小説になると、そんな事を言ってはいられなくなる。幾つかのアイディアが絡み合ったプロットとか、必要な描写の順番の検討とか、或るいは、もっと単純に、多い文章量とかの管理を紙だけを使って行うのは、なかなか大変だ。
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そう言う訳で、私は、自分が書いた(若しくは、書いている最中の)小説を管理する為のアプリとか方法論とかを求めていて、そして、私はそれを、かつては持っていた。
「持っていた」と書いたのは、私がそれを失ったからだ。つまり、前には私がその為に愛用していたアプリケーションがあったのだが、それは、製造販売停止の憂き目に遭ってしまった。
以降、私は、代わりの手段を探していた。
そんな私は、具体的な使い方をきちんと想定出来ていない以前から、アウトライナーには可能性を感じていた。この、テキストエディタよりもずっと柔軟で強力なツールを使えば、以前に私が使っていたのとは別の方法で、私の要求が叶えられるのでは無いか、と。
即ち、小説本文のみならず、それに至る前段階のプロットや、更にそれ以前のアイディアの断片、そして、読み返す為の既に書き上がった本文の段落毎の要約、と言った、性質の異なる文章を一元的に管理する事が、OPML 1.0 の規格に沿った形なら、出来るのでは無いか。
私が、「アウトライナー」では無く「 OPML 1.0 」での管理を求めているのは、理由がある。それは、汎用性だ。
私はもう、単独アプリケーションのみの独自規格、と言うものに、嫌気が差している。
以前に使っていたアプリケーションがディスコンとなった時、それ迄に書いていた文章は何とかプレインテキストの形で出力、保存する事が出来たが、しかし私は、それ迄に試行錯誤して少しずつ育て鍛えていた、自分がやりたい事を達成する為の方法を、一気に失ってしまった。場合に因っては、それ迄の文章を救出する事すら出来なかったかも知れない。
コンピュータのアプリケーションも、そのディベロッパーも、何時迄《いつまで》、存続してくれるか、怪しい。以前の経験から、私はその事を思い知った。その様なもの等、五年も保《も》てば、御の字なのでは無いか。
そして、私はもう、その様なものに、自分の人生の一部を託す気にはなれない。
その点、OPML は、対応しているアプリケーションが多いとは言えないものの、それでも、汎用の規格である。それぞれのアウトライナーの独自機能(例えば、色とか)は諦める必要があるが、しかしそれでも、或るアプリが何等かの理由で使えなくなった時に、替えの手段がある、と言う利点は、ずっと継続的に付き合っていかなくてはならない書類を持つ身に取っては、大きい。
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さて、である。
要求は、はっきりしている。これを使えば問題を解決出来るのでは無いか、と朧げながらも想像出来る、方向性の提示(即ち、アウトライナーの存在)もあった。
だが、だからと言って、それで私が問題を即、解決出来た訳では無い。これでなんとか出来そうだ、と言う予感を感じながら、しかし私は、問題のこんがらがり具合いから、数年の間、暫定的な対処法さえも、思い浮かべる事が出来ないでいた。
そう、問題は、面倒なのである。
先ず、私が一元管理をしたいと思っている文章は、それぞれに性質が違う。
小説のアウトラインがある。
アイディアのメモがある。
小説の本文がある。
そして、本文とは別に、その要約がある。
これらを一元管理したいのだが、しかし、ごちゃ混ぜにはしたくない。一箇所に纏《まと》めるからと言って、それぞれの文章の視認性を失いたくは無いし、性質の違うそれぞれの文章に対して求められる、それぞれに違う機能性も、確保したい。
又、これらの文章は作業中、何時《いつ》に不確定ながらも生成されて、何時《いつ》にその内容が確定するのか、その時系列も予測出来ない。
小説のアウトラインは、初期に生成される事が多いだろう。しかしそれは、確定的では無い。その内容や順番が執筆途中で変更される事は、普通にある。
アイディアを何時《いつ》、思い付くかなんて、この世の誰にも判らない。更に言えば、思い付いたからと言って、それを採用するかどうかも、判らない。しかしそれでも、アイディアを書き留めておかないと、困った事になる。それも、唯、単に、書き留めるだけでは足りない。後で使う事を想定した保管の為方《しかた》をしておかなくてはならない。
小説本文は、それが置かれる位置が動く事は余り無いだろうが、それも絶対では無い。そして、小説本文の内容は、頻繁に書き変えられる。
その様な小説本文が或る程度、確定しないと、内容の要約を書く事は出来ない。
さあ、これらのものを、どうやったら、一元管理出来るだろう。
もう一つ、アウトライナーは、長文の構成をするのには向いているが、長文そのものを書くのには適していない、と言われる事がある。幾つかのキーワードで括られた意味の纏《まと》まりを扱うには機能的だが、必ずしも明解に区切られている訳では無い、場所に因っては複数の意味の区切りに跨《また》がっている様な記述もある文章を扱うのは、難しい、と言う指摘だ。又、段落事に文章を纏めたり、その逆に、一つの段落に纏められた文章を幾つかの段落に分けたりする事も、普通のテキストエディタよりかは、手間が懸かる。
対し、小説の執筆は、長文を書くと言う行為だ。
さあ、これを、どの様に解決するか。
でも、私は先日、思い付いて、これらの事を、或る程度は、解決出来る様な気になっている。
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アウトライナー、それもOPML 1.0 の規格だけを用いて上述の問題に対処するには、先ず、以下の様なルールを設定する。
ルール1。アウトライナーで管理する文章を、「読者に見せる文章」と「読者に見せない文章」の二種類に分類する。
小説の場合、「読者に見せる文章」とは小説本文だ。
対し、「読者に見せない文章」とは、小説の大まかな構成を示すアウトラインや各種設定のメモ、或るいは小説本文の段落事の要約、と言った、執筆者だけが小説を管理する為に目にする情報だ。
これらの二種類の情報が一目で分かる様な、簡単なルールを設定しておく。
因みに、私の場合は、「読者に見せない文章」には行頭に▼を記入する、と言うルールを採用している。
ルール2。小説本文を書く際には、以下のルールに則る。
ルール2-1。一項目には一文のみ、記入する。複数の文章を一項目中に書き入れる事はしない。
ルール2-2。本文中、複数の文章で段落を成す時には、以下のルールに従う。即ち、段落中の二番目以降の文章を、段落の最初の文章の下位項目として配置する。
これらのルールを設定する目的の一つは、一つの文章を複数に分割したり、複数の文章を一つに結合したり、と言った作業には向いていないアウトライナーでの手間を、軽減する事だ。
そして、ルール2-3。本文を書く場合、その上位に、必ず何等かの項目を置く。
ルール2-2から、本文、或る一つの段落中の、二番目以降の文章に就いては、必ず、その段落の一番目の文章、と言う上位項目を持つ。
それでは、段落の最初の文章に就いては、どうしたらいいだろう?。
この場合は、第一レベルの、適切な、「読者に見せない文章」の項目の下に、段落の最初の文章を置く。
此処で言う「適切な」とは、「下位の本文の要約や、或るいは、それを端的に表すキーワードが記載された」と言う意味だ。
もっとも、どの様な内容かはまだはっきりと判らないが、しかし、この様な描写が必要である事は判る、と、アウトラインより先に本文を書き始める事だってあるだろう。
その様な場合には、先ず▼だけを記載した項目を第一レベルに作り、その下位項目として、本文の文章を記載する。その後、執筆が進んでその部分の内容をはっきりと意識出来る様になったら、その上位の▼だけの項目を適切な内容に書き換えればいい。
ルール3。本文、即ち「読者に見せる文章」は前述のルール2に従うが、アウトライン他、「読者には見せない文章」は、どの階層に属していてもいい。但し、或る項目の下位レベルに、「読者に見せる文章」と「読者に見せない文章」の両方が含まれている場合、「読者に見せる文章」の項目は「読者に見せる文章」の行だけが連続する様に、第二レベル以下の「読者に見せない文章」の項目はその行だけが連続する様に、ひとまとめにする。例えば、「読者に見せる文章」と「読者に見せない文章」が一行ずつ、互い違いになっている様な配置にはしない。
これは、「読者に見せる文章」「読者に見せない文章」それぞれの可読性を維持する為にこうする。
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此処迄、読んでくれてありがとう。ご苦労様。
実際にルールに従って文章を書いたり、或るいは、その様にして書かれたアウトラインを自分で実際に操作してみるととそうでも無いのだが、説明の文章を読んだだけだと面倒臭く感じるかも知れない。
其処で、サンプルの OPML 書類を用意してみた。即ち、貴方が今迄、読んでくれた、この文章だ。
この文章は、一番、最後の文章成形の作業を除いて、全て、アウトライナーで書かれた(因みに、最終的な成形は、アウトライナーからタブ付きテキスト書類を書き出した後、それに、正規表現を使った検索・置換を掛けて行う)。
この文章の元となった OPML 書類を、以下の所に置いておく。
https://www.dropbox.com/sh/8do3assu9cg0pgr/AADU6PjSuV8F4Uan7bEyK9NIa?dl=0
上記の所に、比較の為に、二つの OPML 書類を置いた。sample1.opml は、本文の含まれていない、アウトラインのみのもの。sample2.opml は、本文も含まれているものだ。
この内、本文も含まれている sample2.opml の文書の操作の実例を、以下に示す。
下は、全ての項目を閉じた所。この時には、第一レベルにあるアウトラインのみが表示される。つまり、アウトラインの中でも、もっとも大まかなもののみを、確認する事になる。
これらのアウトラインの内、「▼問題」の下位の項目を、一段のみ、開いてみる。すると、次の様になる。
この場合には、「▼問題」以下にある本文の、各段落の最初の一文が表示される。
この、各段落最初の文の抜粋が、大まかな、本文の要約となっている。
もしも「▼問題」の項目に含まれる本文の、全文を確認したいのであれば、その項目以下の全ての項目を開けばいい。それは、次の様になる。
実際に自分の手で色色な操作をしてみて、どの様な事になっているのかを、確認してみて欲しい。