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なぜ林修先生は消えずに活躍できているのか

今さら林先生について言及するのは僕ぐらいかも知れない。

林修先生といえば「今でしょ!」のフレーズで大ブレイクを果たした予備校講師である。先のセリフが流行語大賞を獲ったのは2013年。メディアにはすでに2011年頃に出始めていた。(フジテレビ系列の幻の番組『世界は言葉で出来ている』に出演していたのをよく覚えている)。

メディアに出始めてからもう10年近くになるが、いまだにテレビで引っ張りだこであり、冠番組すら手にしている。

流行語大賞を受賞するレベルのブレイクで素人に近い人間が芸能界に出てきても、普通は2,3年で消費され、飽きられて消える。

しかし、林先生は消えない。
レギュラー番組もしっかり確保し、もはや完全にお茶の間に定着した。

過剰露出で飽きられてもおかしくない状況だったにもかかわらず、なぜ生き残ることが出来ているのか。

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勘違いしないセルフプロデュース力の高さ


そこにはセルフプロデュース力の高さがあるように思う。自分の需要、その輪郭を見誤らなかった。要するに勘違いをしなかった。

急激なブレイクを果たすと仕事のオファーは引く手あまたで、その中には本人のキャパやキャラを超えたものまで含まれる。いわばバブルの渦中にいるので仕事の選別にしろ現場での立ち振る舞いにしろ、普通であれば判断能力が欠如してしまっても不思議ではない。

ドラマになんか出ちゃったり、クイズ番組の回答者側としてガンガン出ちゃったり、あるいはテレビのコメンテーターとしてそれらしいコメントを言う人になってしまったり。

林先生はそのどれにも甘んじなかった。テレビのコメンテーターなんかはおそらく三顧の礼でオファーがあったはずだ。

しかし、実際に彼が選んだのは朝のニュース番組におけるワンコーナー内で教養を披露するものや(テレビ朝日系:グッド! モーニング)、クイズ番組においては時に回答者であり、また時には番組の出題者であり解説者という特殊な役割だった(フジテレビ系:ネプリーグ)

いずれも物事をわかりやすく教える立場。本業の先生という立場を崩さないスタンスを一貫として取っているのだ。時には教えられる立場に立つ教養バラエティも持っているが、これも先生というキャラクターを逆手にとって成立している構成であり、決してフィールドの外ではない。

『林修の初耳学』(TBS系)では知らないことを知らないと晒す姿や、まだ学ぼうとする姿勢を披露。ネプリーグでまさかの間違いを犯す場面なども茶目っ気があり、「林修=天狗、調子に乗ってる」というイメージを効果的に引き離すことに成功している。林先生レベルであればおそらくこの辺りも計算済みだろう。絶妙に好感度を保っている。

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「物事をわかりやすく教えられる」立場としては池上彰という絶対的な先人がいるが、林先生は時事ニュースや政治には切り込まないことで上手く棲み分けを実現。一般教養や現代文など自らの守備範囲を忠実に守り続けることでリスクを冒さなかった。本人のユーモラスな一面もあり、社会派ではなくバラエティーでの起用も進んだ。

この完璧なまでの自己把握能力ともいうべきセルフプロデュース能力の高さが、入れ替わりの激しい芸能界で生き残っている要因だろう。

どこに立ち、何をして、何をしないことが一番ベストであるか。そのコンパスの精度が恐ろしく高い。まさに彼の信条として有名な「勝ち易きに勝つ道を選べ」に通ずる。

あれだけ一気にチヤホヤされる立場になりながら、不倫とか女性問題のスキャンダルを起こしてないのも結構すごいと思っていて、胆力がある証拠かと。

林先生も過去にはたくさん失敗している

林先生が自己把握能力や見極めの力を持ち合わせていたのは決してたまたまではない。一朝一夕で身につけたものでもない。それは彼の著書やインタビューをいくつか読めば分かってくる。あの林先生もこれまでたくさん失敗しているのだ。芸能界で華々しく活躍する前に人の何倍もの失敗体験を重ね、今の客観性や見極めの力を養った。

林先生の失敗、挫折といえば

・新卒で入社した銀行を半年で退社
・投資会社を立ち上げるも失敗、さらにギャンブルでも負け1800万もの借金を抱える
・東大の同期が官僚などになる中でアナリストや研究者の夢を諦め、予備講師の道へ

この辺りが有名だ。東大を卒業して順風満帆に計画通りにナンバーワン予備校講師の道に進んでいったわけではない。

しっかり失敗を経験し、無駄なく糧にしている。あるインタビューでは失敗についてこう語っている。

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「大切なのは、失敗体験ですね。たくさん失敗したら、自分の負けパターンがわかってくる。そしたら、そうならないように先手が打てるようにもなります。生徒にもよく言うんだけど、若さの特権はたくさん失敗できることです。人生で勝ちたかったら、たくさん失敗して、そこから学んでいくしかない」

林先生が半年で辞めた日本長期銀行は程なくして倒産。「ここは長くない」と見限った上での退社だった。元々損切りならぬ判断能力の高さは有していたとみられる。

投資会社での失敗はやりたいことをやってみた結果での失敗だったから「やりたいことではないけど、ここでなら勝てる」と踏んでいた予備校講師へ舵を切るキッカケになった。競馬などギャンブルでの失敗も「自分の負けパターンを多く知る」教訓となり、競馬の仕事にも繋がっている。

僕も人生において失敗や挫折には一つも無駄がないと思っている。でも失敗から10生かせるか、100生かせるかは本人次第だろう。林先生は一切無駄なく掬い上げている。

人生を戦略的に謳歌することが成功の秘訣

サッカー選手の本田圭佑なんかも「失敗した数なら負けない」と公言する失敗コレクターだ。挫折を「過程」に変えるには、最後に成功するしかない。本田圭佑は成功するまで諦めないプロだ。裏を返せばチャレンジの数も図抜けているということ。

結局のところ、成功して息長く活躍出来ている人はチャレンジと失敗の数が人の何倍もあって、さらにそこから一つの無駄もなく学びを得て生かせている人なのだと思う。

先生が消えないのは、メディアにおける自分の立ち位置を見誤らない絶妙な振る舞いや、判断ミスをしない仕事に対する選球眼の賜物。背景には社会に出てからの失敗体験の積み重ねがあった。

おそらくここまでの挫折を経験していなかったら、メディアに出てこれはしたとしても、あっという間に消えていただろう。

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「やりたいことや好きなことではなく、努力をしなくても勝てるような場所で戦え」

「努力はすべて報われるのではない。正しい場所で、正しい方向に、適切な量なされな努力は報われる」

このふたつは先生の格言である。

いくら好きなことでも、人の何百倍も努力を必要とされる場所で、才能もセンスも桁外れの連中をライバルにする戦いを強いられるのだとしたら、賢い生き方とはいえない。

それでもいいというのなら、いくら時間がかかっても、泥水を飲んでも、最後に報われなくても、決して人のせいにはしない。そんな覚悟が求められる。

先生の考え方には心から共感できるし、著書を読んでも自分の人生を通しても腑に落ちていった部分がものすごく多い。

林先生は人生を戦略的に謳歌している。芸能界に限らず、確かな精度で躊躇なく己が生きる道へと舵を切れる者だけが生き残っていける。適者生存というやつだ。

厳しい芸能界といえども、簡単に消えないのは当然だろう。

サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います