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闇堕ちへの誘い(いざない)③

それから二、三ヶ月も過ぎた頃。

季節もそろそろ変わる頃で、わたしはまた洋服を買おうといつものショッピングルートへと向かった。

駅前駐車場に車を停めロータリーの前を歩き出した時、一瞬デジャヴかな?とドキッとした。

数ヶ月前と同じように、品川ナンバーの高級セダンが数台ロータリーの端に停車していて、周りにはまたギャル男とおぼしき青年たちが点在して、道ゆく若い女性に声をかけている。


また遭遇してしまった…!!我ながら引きが強すぎる!


はぁ、とため息を吐いてから一瞬気合いを入れると、わたしは早歩きで歩き出した。

面倒はごめんだ。どうせまた同じ集団だし、捕まれば同じことを言うに決まっている。

今回こそはやりすごさなければ…!!



カツカツカツ…

ピンヒールのリズムが速くなる。

「お姉さん、こんにちは!すみません、お姉さん…」


やっぱり来た。

タタッと走り寄ってきたその人物は、わたしの横に張り付くように早歩きで話しかけてきた。

好奇心からチラッとどんな人間が声をかけてきたのか視界の端で確認したけれど、前回とは打って変わってイケメンとは程遠い類の若い男の子だった。

面倒だからさっさと断るか。イケメンなら、と前回は少しだけ話を聞いてしまったが、イケメンでないなら話すのも時間の無駄だろう。


「わたし、少し前に名刺頂いてますから結構です。」

「あ、そうだったんですね!じゃあ僕の名刺ももらってもらえませんか。」

「連絡するつもりがないので……。」

「名刺が新しくなって、会社のホームページのURLが載ってるんで!よかったら見てみてください!」


礼儀正しい人だったので、渋々名刺は受けった。

一応サックリと目を通す。やっぱり前回と同じ会社名、彼の名前、そしてホームページのURLが記載されている。

彼は満足そうに、じゃあと会釈して停車している高級セダンの方へ戻って行った。



結果として2回も名刺を受け取ってしまったわけだが、わたしはもちろん自ら応募したりはしなかった。怪しすぎて、好奇心だけで個人情報を渡す気にはなれなかった。

しかし話のネタにはなると、この件は数人の友人に話してみたりはした。

友人の反応は決まって

「さすが、持ってる〜!!この田舎でこんなおもしろい珍事件に巻き込まれるなんて、なかなかないよ!しかも2回も!笑笑」

と、普段のわたしのキャラクターを鑑みて、実にらしい珍事だとみな爆笑していた。


この話には後日談がいくつかある。 



つづく


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