横浜FC 2020裏レビュー

 調子に乗って、昨シーズンの雑感を。文字ばかりなのはご容赦を。久々のJ1をなんとか戦いきれたシーズンでした。前回はクラブとして経験も乏しく、補強もままならないままシーズンを戦い、結果として4勝しかできず、早い段階で降格が決まってしまいました。私自身もなんとなくよくわからないまま、浮ついたような状態でシーズンを迎え、シーズンを呆然と終えてしまった気がします。あれは夢だったのか? という感じでした。
 今年は明確な目標を持ち、それに向かってクラブサポーターが一丸となって戦いきれた、充実したシーズンでした。もちろん、思うように勝てないことが多く、苦しさはありましたが、結果として通常のレギュレーションで降格圏を上回ったのは十分な結果でした。
 また、観戦面ではコロナ禍で無観客試合があったり、客数制限もあったりで大変でした。さらに応援でも声出し禁止、チャントは歌えず黙って見つめる試合というのは、不思議なものでした。「新しい観戦スタイル」というものがなかなかしっくりこなくて戸惑うばかり。その中で、改めてJリーグを見るということの意味を考えさせられました。
今回はそんなシーズンを、色々な面で振り返ります。

【スタンド観戦】
 私自身は年間チケットを持っていましたので、有観客のホームゲームは全試合観戦。初めてのホーム皆勤です。逆にアウェーは観戦禁止の頃もあったので、一度も見に行けませんでした。これも初めてですね。
 仕事の方も土日の出勤が制限されたことで、かえってスタジアムに行きやすいという皮肉な状況でした。普段は、年に1度や2度は仕事とかぶっていけないのですが。

 前述のように観戦も制限付き。特にスタンド入が解禁されたばかりの序盤はエリアも指定されていたので、ややアウェー寄りに座ることもありました。
 声なし・チャントなしは寂しい反面、ピッチ内の選手の声がよく聞こえるという嬉しい発見も。コーチングやレフェリーへのクレーム、選手同士の言い合いまで聞こえて、新たなサッカーの楽しみになりました。特に六反の声はよく響き、しばしばスタンドを沸かせる「六反劇場」として人気となりました。

 19シーズンはゴール裏で「応援」が中心でしたが、昨季は久々にバックスタンドでじっくり観戦したので、下平監督の戦術をじっくり学ぶことができたのも楽しかったですね。

【スタグル】
 以前の三ツ沢スタグルは制限が厳しくて場内のみでした。どうしても種類が少なく、かつ狭いエリアで混雑しやすいという欠点がありました。近年は三ツ沢公園の敷地で営業が可能になってやっと盛り上がってきました。しかし長期の中断や再開してもスタグルなしという状況が続き、楽しみが奪われることに。同時に時短営業を強いられる飲食店の苦境も社会全体で問題になっていました。
 するとサポーターの間でスタグル応援の気運が高まり、クラブがそれを受けてスタグルのお店の紹介をHPに掲載、テイクアウトを積極的に活用するようにもなりました。私も何度か通ううちに仲良くなって、リーグ最下位後もたまにテイクアウトを利用するようになりました。こんな状況でも、クラブが色々なアプローチができることを感じました。

【グッズ】
 グッズ公式Twitterアカウントが開設されるなど、積極的に情報発信をしています。昨季は試合ごとにガチャガチャで新しいグッズが発売され、ハマった人も多いようです(私はこの手のはノータッチ)。とはいえ、それ以外の商品展開で言うと、新規発売はTシャツやタオルマフラーがほとんどで、やや食傷気味。家族持ちの視点で言うと、たくさんあっても困るところがあるので、もう少しバラエティがほしいところ。個人的にはネクタイやタイピン、カフスボタンなんかがほしいです。

【スタジアムMC】
 スタジアムを盛り上げるMCはここ数年ほぼスタイルが定着しています。
 メインMCのエハラシュウさんはもう随分長いことやってくれていますね。横浜FCカラーにすっかり染まり、苦楽をともにする仲間として欠かせない存在です。その場その場で熱い一言が加わることと、時には苦言をハッキリいってくれることもありがたいと思っています。
 ピッチではサメゾンビ改め、ヒノトリの2人。最初はぎこちなかった彼らもすっかり落ち着いていますね。単独でコーナーをやったり、三田さんをフォローしたり、堂々としています。チームにも詳しくなって、安心感があります。彼らはイベントでは誘導・案内まで務めていて、すごいなあと思います。
 三田萌日香さんは、今年から参加。以前の里於奈さん以来のアイドル枠です。こちらは元気印で明るいですが、トーク力がまだまだ。インタビューコーナーがなくなってしまったのは残念です。ファッションコーナーでは生き生きしているので、彼女の活かし方を考えてほしいですね。サッカーの勉強もしてほしい。今季もいてくれるのかな?

【イベント】
 今年はあまりサポーター参加のイベントができないので、苦労していると思います。以前のタオルマフラーぶんぶん選手権では我が家も2回ほど選ばれていますが、今は飲水タイムにブーストタイムとして復活できましたね。今年は子どもがあまり選ばれないのは、ユニをプレゼントしているからですかね。私は一度当たりました。
 サポ参加ではようやくピッチユニバナーが復活しましたが、エスコートキッズはないまま。サイン会やフォトセッションなども、復活できるのでしょうか…
 色々なコーナーを試していますが、スポンサーの紹介コーナーは重要です。個人では関わらない企業もたくさんあるので、ここでたくさんアピールしてほしいです。

【フロント】
 2008シーズンにJ2に出戻りしてからのフロントは、厳しいことを承知で言えば、運営・強化の方針が安定せず、昇格どころではないクラブでした。シーズン終了後のセレモニーでは社長の挨拶にブーイングがお約束。もちろん、すべてが駄目だったわけではなく、現場ではスタッフの皆さんはいつも一生懸命だと感じていました。アカデミーは着実に成長していましたし、優秀な選手も獲得していましたが…
 風向きが変わったのは現体制になってから。運営が現場に即した形になり、ビジョンが見えるようになりました。場当たり的な運営ではなく、「利益」に直結する、企業として健全な姿に変貌したのです。
 情報発信も積極的に。HP依存型がTwitter、You Tubeなどを活用するようになりました。クラブメンバーとの意見交換も実施されましたね。チームの方も強化に服部GMが着任し、強化方針に筋が通りました。現社長は毎試合ゴール裏ゲートで観客を出迎え・見送りをして、たくさんのサポーターと言葉をかわしています。これは簡単なことではないですね。嫌なことも言われるでしょうが、いつも気さくに、笑顔で対応されています。温和な方ですが、横浜FCの運営を一気に活性化させるくらいのキレ者だと思いますので、多くのことが運営にフィードバックしていると思います。
 また、To Customerでは事業部の松本さんを中心に情報発信やJリーグIDを生かした観客動向の可視化など実績を挙げています。SNSでつながりを持つサポーターも多く柔軟な運営も実現しています。なにより、サポーターが見て応援するだけでなく、クラブ運営にも当事者意識を持って考えることが増えたように思います。横浜FCをより強く「おらがクラブ」として捉えるようになりました。クラブのフィロソフィーが確実に根付いていると感じます。
 昨年のリーグ中断中、「サッカーがない日常」が生まれてしまいました。その中で、横浜FCの価値をどのように考えるか、ということを踏まえたホームタウン活動などのクラブの取り組みが見られ、心打たれたことが忘れられません。「大切な産業」としての横浜FCを示してくれました。
 経営面では、以前は無料チケットをかなりバラまいて観客動員を増やしていましたが、最近はそういうことがなく、有料観客を増やしています。もちろん、昇格レースに加わり、それを果たしたことで自然に観客が増えた面もありますが、それだけではないでしょう。有料観客を増やすというスポーツクラブの基本的なことを実現しているのです。
 先日の新体制発表の中で、今年度が黒字見込みと公にされました。コロナ禍にあって、素晴らしいことだと思います。

【戦術】
 下平監督が目指す「ボールを握る」サッカーは、第1節神戸戦終了後の中断期間中に整備され、以後横浜FCの基盤となりました。とにかく繋ぐ。GKからディフェンスラインを経由してテンポよくつないで前線までビルドアップすることを徹底しています。ロングボールはほとんど蹴りません。相手の守備網が堅くなってしまえば、リスクを犯さず、一度下げて相手に食いつかせ、スペースを作るなりマークをずらすなりしてから再び前へ。
 キーマンはGKの六反とボランチの手塚です。六反は最終ラインからのバックパスをリベロのように受けて、フリーの味方に預けたり、ボランチに差し込んだり。チャンスと見るや前線にロングボールをピタリと入れることもあります。このあたりの芸当は南も及ばないですね。手塚はパスが正確無比。ポジショニングも秀逸で、いい形でボールを受けては相手の隙を突くパスを出します。
 しかし、全体的に見ると技術的な差もありますから、ハイプレスに対して対応できず、自陣でロストしてショートカウンターを喰らうこともしばしば。かなり高いレベルでのボールコントロールが求められるので、特に序盤は苦心惨憺でした。
 攻め上がっても、無理せずに戻すので、それに対して観客から不満の声も聞かれました。やはりスタンドは攻めるときに盛り上がりますからね。また、サイドからクロスを上げて、ということもあまり志向していていないので、アタッキングサードで攻撃が停滞する場面も多かったです。攻めている時間だけどシュートがない、という弊害に繋がりました。
 左SBの志知は攻撃的SBとして高い能力を持っていますが、この戦術でなかなか持ち味を出せず、ボールを受けても出しどころを探すだけの消極的プレーが多くなってしまっていました。最後の数試合でようやく大胆な仕掛けを見せて覚醒し、最終節横浜ダービーで見事なゴールを挙げましたが、水に合わない感じがあったのでしょう、オフに恩師長谷部監督の福岡への移籍を選択しました。
 CB星も高い対人能力をもちながら、ビルドアップの面で冴えが見られず、後半戦は出番を失いました。FW陣も速い攻撃からのクロスを増やせば、もう少しゴールが増えたかもしれません。
 しかし、明確なポリシーに基づくチーム戦術は、成熟するにつれて上位チームにも有効な場面が増え、横浜FCのスタイルとしてアドバンテージになっていきました。降格がないレギュレーションで、大胆にスタイルを追究する戦いがシーズンを通してできたことも幸いしました。今季は六反・手塚が完全移籍となり、このスタイルをさらに発展させていくことになります。
前述のフロントの頑張りと、チーム戦術の成長がこのオフに多くの選手が横浜FC加入を決断したことにつながったのは間違いないでしょう。


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