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#恋人を喪った安田短歌「平成の終わり」(#安田短歌展2018 再掲)
スヌーズのように痛みは反復し君の夢から引き剥がされる
面影が微かに滲む紙の束 悪い知らせを先に聞かせろ
風化するもの一覧に「想い出」と書き込む酷く撚れた筆致で
平成の終わり ふたりでいた春を振り返るには沈黙が要る
ゆくゆくは殺風景に分け入って手向けではない花を植えよう
#恋人を喪った安田演劇 決定稿(安田短歌本2頒布記念)
0.観客たち開演前、客席に座っているAとBが話している。
A「(自分のスマートフォンの画面を見ながら)え、え、何これ」
B「ん、何?」
A「いや、あのTwitterでね」
B「うん」
A「なんか、海に、デカいのが出たって騒ぎになってて」
B「デカいの? え?」
A「いや、なんか、生きてるやつ。画像とか上がってて」
B「(画像を見せられて)え、何これ、合成じゃないの?」
A「いや、
「安田龍彦は喪われた恋人の夢を見るか?」 巻頭言に代えて
あなたは『恋人を喪った安田短歌』を知っていますか。「安田」とは映画『シン・ゴジラ』の登場人物、安田龍彦(演:高橋一生)のことです。彼の恋人がゴジラの放射熱線によって、2016年11月7日18時30分頃に亡くなってしまったのではないか、という妄想を通して詠まれた短歌群が、『恋人を喪った安田短歌』です。この短歌群が、具体的にどういったものなのか、どういった文脈上にあるのかということについては、本書を
もっとみる#恋人を喪った安田短歌「秋の散歩」
生きてきてしまった人がまた出会うため散歩する秋の街角
無力ではなかったことを慰めに昔なじみの店を訪ねる
傷口に被せた白き舗装路を踏み締めるのも僕の役目だ
昨年の悲しみなんて知らされていない落ち葉が肩に降り積む
来年も花は咲くからこの灰は枯れ木に撒かず心に仕舞う
東京の空が再び狭くなりここだけに射すかよわき光
喪うとわかっていても初めから居ないよりマシだよな、オーケー
#恋人を喪った安田短歌「ドリーマーズ・ギルト」
街らしいフォルムを少し取り戻す首都の電車を乗り間違える
教科書にあの日のことが載るらしい君が密かに熔ける行間
「この辺りかなり復興しましたね。過去が跡形もないですよね。」
ただいまと言う(誰かにでなくひとり暮らしでも皆言っているはず)
空白を埋める癖だけ身に付いてソファーに横たわる 目を閉じる
夜はもう何度も来たよ眩しくて悲しいものは二度と来ないよ
夢を見た気がする 君が微笑んだ気がす
#恋人を喪った安田短歌 「グッド・バイ・ザ・ウェイ」
さようなら、ところで二度と会えないしときどき思い出していいかな
不意打ちで君にもらった画像とか出てきてなんで消すんだよ俺
小数点以下を捨て去りほぼ3と覚えて歪む君のディテール
いいよって言われたことにしてついに許されること自体忘れて
もう何も関係のないため息をついたりもする 頬杖ついて
その昔って言っても去年なんだけどその頃できた痣が消えたよ
続編は嫌だリブートならばいい ひとつだけ改
#恋人を喪った安田短歌 十首連作「推定時刻」
「あの日から一年」何をしてきたか詰問されずニュースの終わり
追悼は夜 定時には帰宅しろ 上司のメモの強い筆圧
キャンドルの列に加わることも無く温い車両に身を押し込める
ただいまと言わなくなった いつからか数えればわかるが数えない
君が消え去った推定時刻まで待つ あくまでも推定時刻
夜空より暗い瞼の裏を見るための微かな黙祷だった
焼け野原だったんですよこの町も涙こらえた僕のこころも
#恋人を喪った安田短歌 十首連作 「デートコース」
最寄り駅にて待ち合わせするための目印として白き慰霊碑
話すとき携帯も時計も見ずに僕もあまり見ない人だった
込み入った注文をするあの声を思い出せずにただのコーヒー
「無糖」っていうかそもそも糖の無い状態だったはずだ最初は
すんなりと告げる舌先われながら呆れて笑う「おとな一枚」
握る手を探してしまう僕にさえ光を注ぐプラネタリウム
あの日からもう一年が経つことを秋の星座の解説で知る
思い出
#恋人を喪った安田短歌 十首連作 「二人称永訣」
クリーニングのタグ君が外したの? 喪服の黒に暫し躊躇う
さまざまに君を愛した人たちが君の不在を確かめあう日
戒名のどの字も似合わない君が皆と同じく読経を浴びる
上京を止めたかったと泣く君の母に肯くこともできずに
僕をまだ知らない君も清らかで遺影になると知らず微笑む
よく君の昔話に現れたおじさんってあの泣いている人?
「とうきょうはたいへんだったなぁみんなそうだあいつひとりだけじゃねぇ」
#恋人を喪った安田短歌 連作part3「銀河鉄道とその夜」
生まれる時は別々で死ぬときも別々ならばなぜ出会うのか
痕跡もすべて燃え尽き新しいシーツが意味もなくただ白い
体重が増減しない輪郭を抱き留めている朝が来るまで
「復興に向かっています」向かうことばかり急かされスーツを着込む
自然治癒力は心に備わってないかもしれず雨がつめたい
「さよならと言えた分だけ幸福さ」不幸を積めて電車は進む
東京 東京と2度言う声を聞いて泣き崩れる人を視た
定型が
#恋人を喪った安田短歌 アンソロジーpart2(Ryota選)「声を最初に忘れる」
映画『シン・ゴジラ』の登場人物・安田龍彦がゴジラの暴走により恋人を喪ったという妄想の設定で詠まれた短歌のアンソロジーの二つ目です。
「がんばって。家で待ってる」
逃げろって言えばよかった。言っていたなら、
(菜漓)
でんぱのとどかないばしょにおかけになっげんざいつかわでんげんがはい
(岡本真帆)
龍の食べ残しの資料を頂く甘く煮た人参が嫌いで
(菊池依々子)
意味もなく身に染みて
#恋人を喪った安田短歌 連作Part2「程度問題」
運命ノ人ヲ肯定スルナラバソノ喪失モ運命トセヨ
強度など意味を持たない夜だった君を呑み込み溶けた金属
喜びを分けあうような手振りして「またね」と言ったもういない君
「秋」に「火」は仕込まれていた 君もまた燃える人群れの一部である
幸福を計測できるわけもなく瓦礫となった君のマンション
君よりも悲しい人を見つけてね そしたらきっと僕に出会える
あの人も誰か喪ったのだろう整列のなか肩が震えて
#恋人を喪った安田短歌 アンソロジー(Ryota選)「君を踏みませんように」
映画『シン・ゴジラ』の登場人物・安田龍彦がゴジラの暴走により恋人を喪ったという妄想の設定で詠まれた短歌のアンソロジーです。
終見ても、名も、根も葉もない噂もさあ――行き場のないエネルギイだ
(菊池依々子)
紫線裂く空を抱く屋上に出る 死にたくはないただ君がいない
(宵野光)
「頼むから生きててくれよ」祈るけどぼくが一番信じられない
(菜漓)
透明になった彼女は未読する「いまどこにいる
#恋人を喪った安田短歌 連作「昨夜未明」
「予知夢ってたまに見るんだ。安田くん、もう少しだけそばに座って」
変人と嗤わずそばにいてくれた笑顔の君を恋人と呼ぶ
仕事には私情を挟まないことにしてるから今だけはさよなら
君のこと想う隙など作らせず会議はいつも早口になる
君の手を握る術などあるはずもなく全区域避難勧告
「今どこ?」と聞く 「今どこ?」と聞いている 「今どこ?」と聞いた「今」はどこだ
地上へと置いてきたんだ君もあの秋に僕