電子帳簿保存法とタイムスタンプ
みなさん、こんにちは。はせちです。
気がつけば、次週は、もう師走ですよね。
改正後の「電子帳簿保存法(以下電帳法と略す)」の本格的な運用が1月から始まった事が、遠い過去に感じます。
私が開発に携わっているinvoiceAgent文書管理の歴史は、毎年発表される電帳法の規制緩和に、どのように向き合うのかを考える歴史でもありました。本格的な制度の運用開始は感慨深いものですね。
今回は電帳法の歴史と制度を技術的に支えるタイムスタンプについて考えてみたいと思います。
電子帳簿保存法の歴史
1998年
電子帳簿保存法施行
国税関係書類(帳簿や決算書類など)の電子保存が認められる
2005年
電磁的記録による保存
COMによる保存
スキャナによる保存
2015年
スキャナ保存における要件が簡素化(電子署名不要)
金額制限の廃止(3万未満に限る制限の撤廃)
電子帳簿保存に対する承認手続きが不要になる
2016年
スキャナ保存における要件が簡素化 (スマホ撮影の容認)
「スキャナ装置が原稿台と一体となったものに限る」制限撤廃
2019年
業務処理サイクル後速やかな対応が必要なタイムスタンプ入力期限の延長(1ケ月+1週間 ⇒ 2ケ月+7営業日に延長)
過去書類を税務署に届け出ることで原本の破棄が可能
2020年
発行者がタイムスタンプを付与していれば受領者は付与不要
受領日時を改変できないシステム(*1)ではタイムスタンプは不要
(*1) クラウドサービスを想定したものと想定キャッシュレス決済では領収書保存が不要
2021年
税務署長の事前承認制度が廃止
適正事務処理要件の廃止
特に速やかな対応が必要なタイムスタンプ入力期限の延長
(3営業日以内 ⇒ 最長2ケ月以内に延長)検索要件の緩和 (取引年月日、取引先名、金額があれば容認)
電子保存していない場合は重課税額に10%の加算(ペナルティ)
2022年
改正電子帳簿保存法施行 (2023年12月まで宥恕期間)
2023年
電子インボイス制度開始
(電子帳簿保存法とは関係しないが、電子化の流れが加速)
2024年
改正電子帳簿保存法の本格的な運用が開始
主要なところだけをピックアップして、ざっとふりかえってみましたが、使いやすいように毎年改正を進めてきたことが良くわかります。その中でも、特に 2005年と2015年は、大きな改正があったと感じます。
2005年・スキャナ保存制度の開始
法改正があり電子データの保存方法が緩和されました。
サーバーやDVD、CDなどに印刷せず直接保存が可能になる
COM(電子計算機出力マイクロフィルム)への直接出力が可能になる
紙の領収書や請求書などをスキャナで読み取り電子保存が可能になる
スキャナーによる保存では「いつ」「誰が」電子化したのかを証明することが重要だと考えられてきたことがわかります。また利用は小額取引にのみ限定されていました。
電子署名とタイムスタンプの付与が必要
金額制限(3万円以下のみ利用可能)
ここから数年後に開発が始まるinvoiceAgentの開発メンバーの中には、文書情報管理士という資格を持つ開発者が多数います。私も所有していますが、資格取得の勉強をする過程で、わずか20年前の事ですが、マイクロフィルムに出力するという内容を教科書で見た当時は、20世紀にタイムスリップした感覚になったことを思いだしました。
2015年・スキャナ保存要件の緩和
invoiceAgentの前身である「SVF PDF Archiver」が登場した直後の事です。
法改正により要件が緩和されました。
スキャン保存では電子署名の付与が不要に。タイムスタンプのみ必須。
金額制限の撤廃(3万円以上の利用でもスキャナ保存が可能)
皆さんも経費精算をされる時に、3万円以上かどうかで経費精算の方法を変える必要があるとしたら使いたくないですよね。制限が撤廃したことで利用しやすい制度になったと思います。
タイムスタンプの重要性
改正電帳法は当初2022年1月の制度運用開始を目指したものの、特に中小企業での準備不足も見られたため2年間の宥恕期間が設けられました。どうなるのかなという心配もありましたが、新型コロナウイルスの蔓延によるリモートワークの拡大も追い風になり、特に経費精算をはじめとした経理の分野では電子化が進んできたのではないでしょうか。今年無事にスタートを切る事が出来ました。
毎年のように法改正を重ねてきた電帳法ですが、タイムスタンプが非常に重要なキーワードになっている事がお判り頂けると思います。
特にスキャナ保存の要件については、なくてはならないものになっています。
電帳法におけるタイムスタンプの役割り
タイムスタンプ
総務省の説明によるとタイムスタンプとは次のように記載されています。
タイムスタンプ(TS)により次の2つを証明することができます
TSに刻印されている時刻以前にその文書が存在していること(存在証明)
その時刻以降文書が改ざんされていないこと(非改ざん証明)
つまり、タイムスタンプを確認することで「いつから存在している電子データなのかを確認できるため、提出された国税に関する書類が適切なタイミングで提出されていたかを過去に遡り確認する事ができる訳です。また提出後に改ざんされていない事も検査できるため信憑性を確保できるのです。
電子署名
よく混同されるものとして、電子署名があります。
電子署名は紙に押下された実印のようなものです。付与した人を証明する事ができます。
電帳法では必須ではありませんが、タイムスタンプとともに電子署名を付与していれば、以下の3点を証明する事ができるようになります。
「何を」・・・電子データ
「いつ」・・・タイムスタンプ
「誰が」・・・電子署名
長期署名
タイムスタンプも電子署名もPKIを利用した認証局による証明が必要です。
したがって有効期間が存在します。
長期署名とは、電子署名やタイムスタンプの有効期限を超えて証明を有効にするための仕組みです。
電子署名の有効期限
電子証明書の有効期間内(通常は1〜3年)に限られています
最長でも5年
5年という期限は、電子署名法施行規則(電子署名及び認証業務に関する法律施行規則)の第六条第一項第四号で次のように定められている期間です。
この有効期間を過ぎると失効してしまいます。
失効してしまうと電子署名が特定個人の署名を証明できなくなります。
タイムスタンプの失効情報や電子証明書の情報など検証で利用する情報とともにタイムスタンプを付与する事で、電子署名の法的な有効性を延長する事ができます。
タイムスタンプの有効期限
10年
10年の根拠は調べてみましたが判りませんでした。
この有効期間を過ぎると失効してしまいます。
失効してしまうと文書が改ざんされていないことも、電子データの存在を証明する事もできなくなります。
一方で保管する電子データは10年、20年と保管が必要な場合もあり、有効期間を超過してしまいます。
例えば不動産における30年間のリース契約の場合、契約満了を迎える前に電子証明書の有効期限が超過し失効してしまうことが想定されます。
電子署名やタイムスタンプの有効期間内に、新しいタイムスタンプを付与する事で、それまで有効だった電子署名やタイムスタンプの有効期限を法的に延長する事ができます。具体的には3年間の電子署名の有効期間内に有効期間が10年のタイムスタンプを付与する事で、タイムスタンプが有効な10年の間は電子署名の有効性に間違いがないことを法的に証明する事ができるようになります。
また、タイムスタンプの有効期限内に、新たにタイムスタンプを付与することで、有効期限をさらに10年延長することができます。
有効期限の意味
有効期限は、暗号アルゴリズムの危殆化(きたいか)を防ぐために、有限となっています。一般ユーザーが触れる機会の多い電子署名の有効期限は、特に短く設定されているそうです。暗号の解読は次のような要因が考えられます。
新しい技術の登場でアルゴリズムを破られる可能性が出る
CPUなどのハードウエアの進化により体当たりによる解読される可能性がある
一方、タイムスタンプは個人ではなく事業者が秘密鍵を扱うため有効期限が電子署名に比べて長く設定されています。
いずれにしても、新たに付与するタイムスタンプには、新しい暗号化アルゴリズムを採用する事で、より強度の高い暗号で、保護する事ができるようになります。
さいごに
電子帳簿保存法において、タイムスタンプの技術が重要な役割を担っている事がなんとなくわかって頂けたかと思います。
長期署名を扱うために、国際規格のフォーマットが規定されています。
CAdES:CMS長期署名フォーマット
PAdES:PDF長期署名フォーマット
XAdES:XML長期署名フォーマット
JAdES:JSON長期署名フォーマット
上記のフォーマットについても触れたかったのですが、長くなってしまいましたので、今回はここで終わりにします。次回以降で機会があれば、是非紹介させていただこうと思います。