見出し画像

墨汁ダルメシアン化計画の憂鬱|ふあんクリエイターの推理日誌

食事による服の染みから、タイムスリップ

「あああっ!!!」

と反応したときには、もう遅いことの一つについて。

 定食屋さんで、麺類や中華系などの食事をするときは、汁はね、油染みに細心の注意を払う。事前にわかっている場合は、黒や茶系の服で出向くのだが、予定外に立ち寄ることになって、白シャツ、薄い色のジャケットなんか着ていた日には緊張してしまう。仕事の合間に外で食事を済ませるときは、その予定外率が高まる。たとえば、

「カレーうどんにしようぜ!」

と同僚の一声で決まったうどん屋さん。カレーうどんは好きなのだが、しまった!こんなときに限って、わたしは身なりは白め。暖簾をくぐる緊張感、そして開き直り。別のメニューを頼むこともできる、ただ、おすすめなら食べないわけにはいかない。食べたいから。いいよね、好きなものを食べるわけだし。服は洗えばいいのよ。

 似たような緊張、むかしもあったような。そうだ、書道の授業だ。

とめ

 小学校は私服だったため、書道の日は上下真っ黒な服で登校していた。服は母が用意しており、粗相を見越しての黒だった。わたしもそれは望むところであり、墨汁で服を汚したら、くどくど怒られること間違いなし。まっぴらごめんだ、というわけで、黒い服でないと安心して学校には行けなかった。黒い服は、母の怒りを止める役割をしてくれていた。ちなみに、図工の日もそうだった。絵の具を使うからである。

はね

 問題は、中学校である。制服になり、夏服も冬服も白いシャツ生地になってしまったことで、墨汁のはねが誤魔化せない事態が発生した(美術も同様)。冬はブレザーと呼ばれるジャケットがあったのたが、真っ黒ではなかったので、はねたらわかる。

 黒ポンチョ的ななにかを羽織りたかったのだが(書きづらいこと請け合い)、クラスメイトにそんな人はいなかった。一人だけ黒シャツというわけにもいくまい。あえて体操着に着替えるのもためらわれた。結局、はねたら怒られる。よって、書くときは極度の緊張を強いられた。失敗しないようにしなきゃ。でもね、こんな考えで取り組んだものって、余計に失敗するのですよ。

 そして、筆の操りかたを誤り、数滴はねたのです。割と大胆に。あああっ!!!やっぱりね。

はらい

 さて、母の怒りをいかに払いのけようか。

「ちょっとだけだから目立つのよ。点を増やしちゃおう」

 木を隠すには森。心の中のわたしが提案した。なるほど、犬の一種になれというわけか。墨汁には墨汁を。名案!ただし理解されないよなあ。それに、自らポチポチ足していくというのも変だ、先生の目もあるし、友人からも・・・。学校の伝説になるぞ〜!とか、謎の思い出作りをする気力もなし。

 結局、点々を足す勇気もなく、授業の後に水道で落とそうとするも失敗。当時、汚れ落としなるものも特に携帯していなかった。ああ、今日は帰りたくない。

 帰りたくないが、家はあるから帰る。帰巣本能。ああ、心は犬だ。

 そして、予定どおり、ひどく怒られたのであった。服を大切にしていないとか、なんとか。やはりドジだから信用できない、とかなんとか。

 お説教がBGMの夕飯で、考えていたのはクラスメイトのことであった。

 墨汁が服にはねる、というのは別にわたしに限ったことではなくて、ほかの子にも起こってはいたのだ。しかし、割と「ああ、はねちゃったな」と一瞬騒いだり、困ってはいたけれど、怯えている様子とか、その後鬱々としているとか、そういう反応は見られないように思えた。

 あの子は、墨汁で怒られないのかな。それとも、怯えた気持ちを隠しているのか。よその家庭のことを気にしたりしていた。そうやって、やり過ごしていた記憶。

[つづく]

うさぎのおやつ代になります。(いまの季節は🍎かな)