139 次につながる種
11月最初の朝。からりと冷たい空気が窓ガラスから伝わってきます。
きっとさむいよねと思い、カーディガンを羽織って、からからからと音を立てながら窓を開けたら新しい空気が入ってきました。
すっきりとしていて、透明で、やっぱり冷たくて。お水のような空気でした。
ほんの少しの間目を閉じて、飲みもののような空気を全身に行き渡らせます。体がしゃきっと目覚める、ささやかな魔法。
しばらく窓を開けたまま、朝食の支度をします。
お湯をわかして、昨日作ったスープを温めて。
そうそう、ぶどうがあるんだった。
冷蔵庫から出したぶどうは、紫がかった紺色の大粒がたっぷりとついています。まるまるとしたその姿はかわいくて、いつまでも見ていられます。
お水で洗ってひと粒ほおばると、ぶどうの濃い香りが鼻を抜け、わずかに遅れてみずみずしい果肉が広がりました。
これはしあわせな果物だわ、と思ったとき、がりっと種を噛んでしまいました。
種?
そう思ってぶどうが入っていたパックを見ると、セロファンの部分に丸いシールがはってありました。そこには「種なし」と書いてあります。
これはこれは…。こんなにたくさん実がついている中で最初に食べたぶどうに種が入っているなんて。少しひしゃげてしまった種を手のひらにのせて見ていると、ぶどうが力を振り絞って作った子どもに見えて、愛おしくなりました。
種も必要だものね。
あると少し食べにくいけれど、必要なものだもの。
次につながる、大切なもの。
それはきっと、普段も同じ。
ちょっと生きづらさを感じるときも、不意に起こるトラブルも、きっと人生を歩んでいく上では必要なのかもしれません。
次につながる、大切なもの。
お部屋がすっかり朝の空気になったので、窓を閉めに行きました。
窓に手をかけてもう一度外の空気を吸います。
外はいいお天気。
神さまがいるとしたら、きっとブルーが好きなのね。
ぶどうに負けないくらい濃い朝のにおいを感じながら、静かに窓を閉めました。
今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
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