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窓辺で本を

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これまで読んだ素敵な本たちをふむもく視点でご紹介します。
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#読書

162 夏におすすめの小説6選

日に日に暑さが増してきました。 梅雨が明けたら、明るい夏が待っています。 今年の夏はどのように過ごしますか。太陽を思いっきり浴びて、汗をかくのも夏らしい過ごし方ですが、涼しい室内で本の世界に入るのも良いものです。 本は旅です。空間も時間も超えて、他の人のフィルターを通した別の景色を見にいくことができます。自分一人だけでは体験し得ない人生を知ることは、心潤う時間です。 今回は、夏の読書におすすめの小説を六冊ご紹介します。 作中の季節が夏だから選んだものもありますし、季節に

097 私の本棚

2019年もおしまいに近づいています。 街はイベント続きでにぎやか、さまざまな色の電飾ではなやかです。 私は、12月半ばから年末らしく仕事もプライベートもなにかとぱたぱたしています。 仕事は休憩に行けない日があるほど忙しく、日々睡眠不足、にきびがぽつんとできて、二重まぶたも奥二重になりました。(私は疲労がたまると、まぶたがむくんでしまうのです) 毎日くたくたで帰るので、大好きな散歩にもなかなか行く気になれず、休日は家で過ごしていました。 せっかく家にいるのだからと、部屋の

112 私の本棚-白木蓮の季節編-

この冬の終わりにも白木蓮が咲きました。 ふっくらとした、やさしい花が春の訪れとともに咲きました。 今年の白木蓮と出会ったのは、三月のはじめ、お仕事へ行く途中でした。やや霞みながらもきれいに晴れた平日、木いっぱいに白いお花が広がっていました。 その白木蓮は、川沿いの道に並んでいる桜たちの中に二本だけ紛れているのです。毎年、桜よりも何週間か早くつぼみをふくらませます。 少し離れたところから見るせいか、白木蓮に気づく時はいつも満開です。 ふわふわと木を彩る白木蓮。今年も会えた喜

105 私の本棚-1月編

たとえば、なにかに成功したとき、あるいは失敗したとき、こんな言葉が思い浮かびます。 「君は何を学んだ?」 大気が微かに揺れ、風が笑った。 -『風の歌を聴け』 村上 春樹著より あるいは、不意にひとの心が見えたとき、こんな言葉が聞こえます。 あんなふうに落ち着いて、白くて、誰もがじんとして泣きたくなるような明るくてきれいな場所があなたの中にあるのね。 ―『サンクチュアリ』 吉本 ばなな著より こういったときに、これまで読んできた本が私の血肉になっていると感じます。 言葉

076 窓辺で本を-『ことり』

私は今、とあるホテルの一室でこの文章を書いています。 普段、人工的な高いところはあまり得意ではなくて、タワーマンションも高層ビルもタワー類にも興味が持てなかったのですが、あることから視点を変える必要性を感じて高層階の部屋を予約しました。 なるべく窓の大きい(でも壁全てがガラスになっているものではなくて、ちゃんと窓らしい窓がついている)部屋で変わりゆく景色を感じながら、高層階の静けさは特別だと思いました。 これまで実家でも今暮らしているマンションでも音が全くない、という状態

034 窓辺で本を-夢十夜-

高校生のころに仲の良かった友人が夢に出てきました。 とても楽しい夢でしたが、目がさめたときに「これはまずい」と思いました。 私は身近な人と夢で会う頻度が高くなればなるほど、その人と疎遠になる傾向があるからです。でも、なにかにつけて気づくのが遅いの私は、はっと思ったときには、すでにその人とは会えなくなっていることがほとんどです。 -------------------- 「こんな夢を見た」という出だしが有名な夏目漱石の『夢十夜』は、1908年の夏に朝日新聞で連載されていた短

023 窓辺で本を-夕闇の川のざくろ-

雨が止んで、世界がみずみずしくなったので散歩に出かけました。 葉っぱの緑色は、雨が降る前よりも濃く見えます。土や家の屋根は水をふくんでどっしりとしています。 川はやはりカフェオレ色になって、いきおいよく流れています。 なにかを運んでいるように。ただひたすらに。 -------------------- 江國香織さんの作品で「夕闇の川のざくろ」というお話があります。 もともとは絵本だったようですが、私は図書館で『江國香織とっておき作品集』という本の中で出会いました。その後、

020 窓辺で本を-ルピナスさん-

足元をみて歩いていると、何かに躓くことは少なくなるかもしれませんが、方向がこれで良いのかどうかわからなくなることがあります。 私はときどき、お店のガラスに映る自分を見て、姿勢がしゃんとしているかチェックします。思っていたよりも猫背になってしまっていることもあり、そういう時はたいてい何かにもやもやしている場合が多いです。 姿勢の良いおばあちゃんになりたいものです。 -------------------- バーバラ・クーニーさんの絵本『ルピナスさん-小さなおばあさんのお

017 窓辺で本を-なくなりそうな世界のことば-

あなたは、好きな言葉を持っていますか? 私はたくさん持っています。 本を読んでいる時や人と話をしている時、テレビを見ている時、歌を聴いている時、道を歩いていても。そこかしこに言葉はあふれているので、さまざまな場面で琴線に触れる言葉と出会います。 私の場合、好きな言葉と出会った時はいつもびっくりしてしまいます。 「えっ」 と。そしてもう一度その言葉をかみしめて、しっかりと頭の中にメモします。 そういった大切な言葉たちが、ふとした瞬間に助けてくれることも多くて、言葉のちからを感

012 窓辺で本を-西瓜糖の日々-

何年か前、図書館で仕事をしていたことがあって、そこでさまざまな人に出会いました。 本を読むのが好きで定期的に来る人、子どものために絵本を借りに来る人、なにか知りたいことがあって来る人。そのほかいろいろ。 私に話しかけてくれる人は、たいてい何かを知りたい人でした。 あの映画の原作はありますか?ええと、作者はわかりません。とか。 血液型の歴史を知りたいのだけど、どうやって調べたら良いですか。とか。 どうしてこんな道徳的に良くない本を置いているのですか。とか。 二歳の子にどんな本

008 窓辺で本を  -マザリング・サンデー

明るい時間が長く続く季節だけど、陽が暮れはじめたらあっという間に夜になります。 目の前に広がる景色が赤くてまぶしい。暑くて、でもきれい。 束の間の夕方。 今日はどんな一日でしたか。 暮らしているといろいろなことがあって、同じような日でも気温や風の香りは違っていて、同じ人間でも考えることは変わります。だから毎日が大切なのですが、中でもうんと大切で特別な日があります。 今回の記事の主役『マザリング・サンデー』は、とある女性の特別な一日を描いた小説です。2016年に発表された