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冬が舞い戻ってきたような寒さの夜。 街の灯は、てんてんと続いている。 明日の食パンを買うことを口実に家から出た。 夜の空気のつめたさが胸に入り込んでくる。 食パンを手に入れるミッションはあっという間に完遂してしまったので、食パン入りのエコバッグを気持ち振りながら遠回りして帰ることにした。 意外と車は走っているが、歩いている人や猫はいない。 濃紺の空には、チャコールグレーの雲が浮かんでいる。 ふぅ、と思わずため息が出る。 なぜ私はミスばかりしてしまうのだろう。 定期的に訪
「少ない」というと、不安に感じることもあるかもしれない。 例えばストックが少ないと心配、お金は少しでもたくさんほしいなど。 もちろん、「もっとほしい」という気持ちは原動力になり、進歩や成長につながることもある。 しかし貪欲になり過ぎると、足りない気持ちが増幅して恐怖感にとらわれることがあるのではないかと思う。 そして恐怖から生まれる行為は、時として取り返しのつかない事態を起こし、恐怖の連鎖が始まる。 なんだかカタい始まりになってしまったが、「ほのぼの」という言葉を改めて
立春を過ぎたからといって、すぐに温暖な気候になるはずもなく、痛むような冷たい空気にさらされながら、そこかしこに漂う春の粒を見つける日々である。 春の粒とは、視覚的なものというよりも感覚的なもののことだ。数日前より日が長くなっているとか、蝋梅が馥郁たる香りを放っているとか、水道水が若干やわらかいとか。 冬色の日に春がにじんだ瞬間を見つけると、心にあかりが灯る。 2021年は仕事に追われてしまい、その忙しさに文字通り目が回った。 私は添削や書き物といった活字まみれの仕事をし
中学生の頃、英語の教科書で『星の王子さま』を知った。 当時、英語は苦手だったのだけれど、シンプルでありながら考えさせられるストーリーとかわいらしい挿絵に魅了されて、何度も読み返した。文章をきちんと訳したくて、一所懸命辞書をひいていくうちに、他の国の人が使う言葉を知るのはおもしろいと気づいた。 あとで『星の王子さま』はフランスの作家の作品と知り、いつかフランス語も勉強してみたいと思った。 物語は、ときどきこういう力を発揮する。 『星の王子さま』の中で印象的だったのは、「大
空気は冷たいけれど、穏やかな夜。 お風呂に入って、歯磨きもして、暖房を切って、その日の気分の本を連れてベッドに入る。 明日はお休み。どう過ごそうかなと思いながら本のページをめくる。 その日の気分は雑誌。色とりどりの写真と短い文章が心地よい。 自然豊かな場所に行きたいな。 本屋さんに行って、新しい本をチェックするのもいいな。 それとも、アップルパイを食べに行こうかしら。 休日の前のわくわくは静かに、でも確かに心躍らせる。 雑誌の中を進んでいくと、「煮込み料理特集」にたどり着
ほんわか優しい雰囲気。 いつも笑顔で穏やかな性格。 そんなふうになりたいと高校生のころ思った。 そう思ったきっかけは、家庭科の授業。 将来、どんな暮らしがしたいかA3の紙にまとめるという授業があった。 みんなおしゃれな雑誌や不動産屋さんの広告を持ってきて、「こんな洋服が着たいな」「こんな家に住みたいな」「花屋さんに就職したいな」なんて楽しくおしゃべりをしながら、お気に入りを切り取っては紙に貼り付けていった。 できあがったA3の紙は、教室や廊下にしばらく貼り出されていて、
風がすっと冷たくなった。 それは本当に突然のことで、ある日の雨上がり、窓を開けるとすでに冬に近い秋がいた。 「久しぶり」 冷たい空気に、そう言われた気がした。 秋生まれの私は、空気が冷たくなってくると元気になる。 晴れているのに肌寒い。雲はぞろぞろと流れていく。夕陽が作る影は夏より濃く感じる。 べたべたしていない優しさというか、凛とした甘さというか。 そういうさっぱりした感じが好きで、うきうきしながら秋冬の支度をする。 部屋で履く靴下を出したり、湯たんぽを探したり。
雨が去ったと思ったら雲が残って、ぐずぐずした空が続く日々。 叔母の家の近くにある山には、もうリンドウが咲いているらしい。 濃い青色の花は涼しげで、秋の訪れを思わせる。 季節がゆるやかに、でも確実に移り変わる中で、私はコーヒーを飲みながら仕事をして仕事をして仕事をしていた。 私はわりと細かくこだわる方で、例えば人の文章の校正をする時に、気になる言葉があったらとことん調べてしまう。特に専門外のことだと、その言葉の説明に使っている言葉の意味がわからないことがあり、迷路に入ってしま
今月、お花屋さんから届いたお花はアネモネでした。 あざやかな赤や紫や白のアネモネは、シンプルな花瓶が似合います。 窓辺とリビングの棚の二箇所に飾りました。 一本の茎にひとつのお花。 その下にくるりと一周葉をつけています。 窓を開けていると、やわらかな空気が部屋を訪れて、ふわふわとアネモネを揺らします。 アネモネの学名は、ギリシャ語で「風」の意味があります。 私も風に吹かれたくなって、お出かけしました。 心地よい陽光が道も木も信号も平等にあたためる春。 この季節は動植物
12月になり、空が青くて心地よい日が続いています。 昨日やその前の年はどうだったの、と言われても覚えていないのですが。 でも、今年は昨年よりも空を味わうことができていると思います。 もし、神さまがいるとしたら、きっと青色が好きなのでしょうね。 空、海、川…天然のブルーがあちこちにあります。 ある昼下がり。 頬杖をついて考えごとをしていました。 ふと、肩まである自分の髪を見ると、一本だけ長い髪があります。 軽く引っ張ってみると、するするすると出てきました。 どうやら、抜けてし
冬の朝のさむさは特別です。 太陽が出ればやわらぐさむさ。 ブルーとホワイトが混ざったような美しいさむさ。 冬が一所懸命冬らしさを出そうとしているような。 やや不安定でさらさらしたさむさです。 心がさわさわと揺らぐときがあります。 このままでいいのだろうか。という思い。 後悔ばかりだな。という反省に似せたセンチメンタル。 どうして生きているのだろう。という問い。 答えはどこにもないことはわかっているのにぼんやりと考えてしまいます。 生産性のない考えはやめよう。 と思ったそば
よく晴れた休日の朝。 古い洗濯機が今にも動き出しそうな音を立てながら、平日がんばった衣類を洗っています。 太陽は部屋に味方してくれているようで、家具も壁もすみずみまで明るくしてくれています。 見慣れた椅子、カーテン。少しだけミルクティが残っているコップ。 自分の場所があることは、なんてうれしいことでしょう。 先日、緊張の糸が切れて涙してしまいました。 3か月ほど前から発症した皮膚炎は、数度の検査でも原因がわからず、さまざまな薬を試しては良くなったり悪くなったりを繰り返して
休日に夢中で本を読んでいると、なんとなく活字が見えにくくなったな、と思い顔をあげたら夕方でした。秋の夕方はほんの一瞬。あ、と思ったら、すぐに夜になっています。 窓から見える夕方の空はとてもきれいで、顔をあげてよかった、と思いました。 早足で過ぎる雲。オレンジ色の空気。 今日一日にさよならを告げる太陽の光は、心底あたたかくて贈りもののようです。 そんな風に夕方に見惚れていると、ほら、もう夜です。 この夕暮れを目にとどめたい、と思いました。 冷蔵庫を開けると、ジャムがふたつ
暮らしていると、ときどき神経衰弱をしている気持ちになることがあります。神経衰弱とは精神病の方ではなく、トランプを用いて行うゲームの方です。 床に伏せた状態で広げたたくさんのカードから二枚めくって、同じ数字が出たらそのカードを自分のものにできるというゲームです。ひいたカードの数字を覚えて、ほかの人よりも多くのカードを自分のものにしたら勝ち。 記憶力が試されるゲームです。 仕事先が割と大手の学習塾なので、毎日多くの人と出会います。 高校生は、みな同じような服装・髪型なので普