ドイツの小さなカリグラフィー折本
Facebook 上で友達として繋がっているドイツのカリグラファー、Katharina Ostenda さんが、2021年の2月に以下のような投稿をされました。
ここで紹介されてる折本に一目惚れをし、早速タイトルを頼りに古書マーケットの AbeBooks で探したところ、1件だけヒットしました。しかも7冊セットだったので、一も二もなくすぐに注文して入手しました。
日本でいう文庫本サイズの薄い折本で、ドイツ語なのでよく分からず最初はカリグラフィックな書体を用いた写植印刷だと思ったのですが、よくよく見ると同じ字なのにほんの僅かに形が違っているのが確認できました。フォントならあり得ないことです。
で、コロフォン(奥付)を確認すると人名らしきものがあったので、それを検索するとカリグラファーがヒットしました。つまり、私がフォントだと思っていた文字は、手書きだったのです(※本そのものを手書きしてるわけではなく、手書きから版を起こして印刷しています)。
「こんなに正確に一定に書けるもんなの?」とその技術に驚嘆しました。それを SNS で紹介したところ、カリグラファー仲間から結構な反響があり、「どこで買ったの?」と数件問い合わせもありました。正直、もう入手が難しいと思われるので、こちらでちょっと紹介したいと思います。
ところでこの本はなんなの?
よくは解らないんですが(笑)、数冊帯が付いていたので、そこにあった文を翻訳すると諺や名言集のような感じです。
ちなみに折本は中国発祥のようですが世界的に日本語で orihon らしく、帯にも「Altjapanisches Faltbuch」(古い日本の折本)と書かれています。一応英語では楽器のコンサーティーナに似てる事から concertina book とも呼ばれています。
では、発行年順に紹介します。すべてミュンヘンの Ehrenwirth という出版社から発行されています。
Willst du getröstet werden... (1964)
「慰められたい時に」とかいうタイトルです(笑)。これだけ作者名がありません。やや刺々しくコントラストの強いイタリック(Humanistischer Kursive)で書かれています。
Ein Reis vom Narrenbaum (1965)
by Friedrich Poppl
「愚か者の木からの米」。よく解りませんが、narrenbaum で検索すると何か祭りのようなものがヒットしました。木で作った柱の上にプレゼントを起き、登ってそれを取るというようなのがあるようです。
イタリックとカッパープレートの中間のような書体です。ストロークはカッパープレートのそれですが、字形はイタリックっぽく文字同士が繋がっていません。
作者の Friedrich Poppl (1923-84) はフォントもデザインしていたようです。MyFonts で5つほどヒットしました。
この中の Elfort という書体がよく似ています。
Zwei Wege zum Glück (1965)
by Friedrich Poppl
「幸福になる2つの方法」。こちらも前述の本と同じ書体です。
Der Weise Lächelt (1966)
by Hermann Kilian
「賢い笑顔」。なんとも分類しづらい書体です。強いて言えば角張ったヒューマニストでしょうか。
作者の Hemann Kilian (1929-2004) はドイツのカリグラファーで、グラフィックデザイナーでもあったようです。下記のサイトに作品が多数掲載されています。
Freundschaft will genährt sein (1966)
by Hermann Kilian
「友情は育まれたい」(合ってる?)。前述の本と同じ書体です。
Ein bißchen Güte (1967)
by Hermann Kilian
「小さないいこと」。これも前2冊と同じような書体ですが、やや傾いてイタリック風味が出ています。
Brücke der Hoffnung (1967)
by Hermann Kilian
「希望の架け橋」。前述の「小さないいこと」と同じ書体です。
オマケ
この折本の内2冊には、以下のカードが挟まれていました。
見ると、大きな文字で書かれたものは、2行目から8行目までは、上記の本のタイトルと一致しています。つまりこれは、この折本シリーズの目録のようです。
ということは、1行目の「Von mancherlei Freuden」、これだけが未入手という事になります。実は購入時の説明文には「8冊の内の7冊」とありました。最初から1冊欠けていたんです。その欠けた1冊のタイトルが不明でしたが、この note を書いている内にこのカードに気が付きました(アホかいな)。
で、早速 AbeBooks で検索。2件だけヒットしましたので、即座に condition: very good のヤツを購入。本体が $7、送料が $16 でしたが(笑)。届いたら追加で掲載しますのでお楽しみに。
ちなみにカードの一番下に Leporello レポレッロとありますが、これは折本の別称らしいです。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」に出てくる召使いの名で、劇中で主人に持たされていた折本形式の長い目録を開くシーンがあり、そこから来てるそうです。勉強になったね!
[追加] Von mancherlei Freuden (1964)
欠けていた一冊が届きました。「たくさんの喜びの中で」というタイトルで、これも作者名がありませんが、「Willst du getröstet werden...」と同じ書体です。
以上、コンプリートしました。ちゃんちゃん。
カフェラテおごってください。