カズ、キング・カズ。

11月8日、ニッパツ三ツ沢球技場で行われたサッカーJ1、横浜FC対ヴィッセル神戸のゲームで、三浦知良が今季2度目のリーグ戦出場を果たした。先発に名を連ねた9月23日の川崎フロンターレ戦に続いての出場となったこの日、背番号11は後半42分、1対1の同点の場面でにピッチに送られている。

ホームゲーム、同点の場面での試合終盤。つまり、勝つための手段として、横浜FC下平監督はカズを起用した。カズは前線に位置し相手DFとボールを追い掛け、自陣に戻った際にはイニエスタとのスプリントもみせている。

そして試合は後半ロスタイム、横浜FCの19歳、MF安永玲央のミドルシュートが決まり、横浜FCが勝利した。指揮官の采配は、勝利を手繰り寄せる最高の結果をもたらした。

すでに、プロサッカークラブにおけるその存在自体だけで賛否が語られ続けている、53歳の三浦知良。もしかしたら、いや、ほぼ間違いなく「否」の意見のほうが多いだろう。どれほどキャリア、そして経歴が華々しいものであっても、クオリティが衰えていたならばプロの世界、ましてや一国のトップリーグでプレーの機会は与えられるべきではない。そのことは横浜FCサポーターでさえも理解しており、SNS上でも批判的な意見も頻繁に目にする。もちろん、カズ自身も自らの評判を耳に、そして目にしているはずだ。

ただ、長年にわたってキングと呼ばれ続ける男は、人々のあらゆる批判を受け入れつつも、全く苦にしていないのではないか。だからこそ、ピッチの上に立ち続けていられるのではないだろうか。

十代の頃よりサッカーの世界に身を置いて以降、栄光と、そして常人では考えられない程の挫折を経験してきたことは、その足跡を振り返ると、ファンでも知る部分は多い。ブラジル時代、ドーハ、W杯、イタリア、クロアチアへの海外移籍……。だが、その都度、大きな傷を負っても、今ではそれらを感じとることはない。例えば、クロアチアザグレブ所属時代でも、監督、そしてチームメイトからも耐え難い扱いを受けていたと、伝えられていた。ベンチ外が続き、控え選手による練習試合で土砂降りの中、文字通り泥にも塗れた姿があった。

だが、1999年8月の日本復帰以降は、負ったはずの傷を微塵も感じさせることはなかった。キングは英雄となって、帰還した。その強さを未だになくしていないのが、現役のJリーガー、三浦知良だ。

昨年のJ2最終戦昇格の瞬間や、今季リーグ戦での王者川崎フロンターレ戦等、大きな節目や話題となり得る場面での起用が続いている、カズ。そして昨日のヴィッセルとのゲームも、イニエスタとの「競演」が試合前から注目を集めていた。実際に、試合終了後、真っ先にカズとイニエスタは歩み寄り、何事か言葉を交わしていた。

だが、一つ言えることは、この日横浜FCは逆転で勝利し、勝ち点3を挙げた。勝利の瞬間を告げるホイッスルを、カズはピッチの上で聞いた。カズは間違いなくチームの勝利に貢献した。それは揺るぎない事実なのだ。(佐藤文孝)

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