『あなたのパラシュートを詰めるのは誰？』　

アメリカの海軍学校を卒業したチャールズは、
パイロットとしてベトナム戦争に参戦していました。
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彼は優秀なパイロットとして
数々の作戦をこなしましたが、
75回目の襲撃で敵ミサイルに撃墜されてしまいました。
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そして、
落ちていく中、危機一髪
パラシュートで脱出に成功しました。
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しかし、
敵地のど真ん中であったため、
その場で捕まり、投獄されて苦しい6年間を
監獄で過ごすこととなります。
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やがて、
ベトナム戦争が終結し、
チャールズも無事に解放されました。
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そして彼は
自分の経験から学んだことを
講演して歩くこととなるのです。
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それは、ある日のこと。
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彼が妻と2人でレストランで食事をしていると、
別のテーブルにいた男が彼のもとにやってきて
こう言いました。
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「チャールズ！あんたチャールズじゃないか？」
「空母からＺ機で出撃していっただろ。撃墜されたんじゃなかったのか？」
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チャールズは驚いた。
「一体全体あんたはなぜそんなことを知っているんだ？」
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すると男は
「あのとき、おれがあんたのパラシュートを詰めたんだよ。」と。
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チャールズは深い驚きと感謝で思わず息をのんだ。
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そして男は嬉しそうにこう言った。

「どうやら、ちゃんと開いたようだな。」
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「もちろんだ。もしあのとき、あんたのパラシュートが開かなかったら、私は今こうしてここにいられるはずがない。」
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その夜チャールズは一睡もできなかった。
あの男のことが頭から離れなかったのである。
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彼は自分に問いかけていた。
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あの男は空母の上でどんな格好をしていたのだろうか。
おそらく、他の水兵と同じように
白い帽子をかぶり、背中に四角い背襟をつけて、
ベルボトムのズボンを履いていた。
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同じ海軍とはいえ、あの男は一水兵で、
自分は間違いなくエリートパイロットだった。
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彼とも何度か顔を合わせていたに違いない。
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しかし、
「おはよう」とか、「元気か？」とか、
自分から声をかけたことが
一度でもあっただろうか。
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あるいは、彼らの仕事に対して、
感謝の気持ちを伝えたことが
果たしてあっただろうか…。
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チャールズは今まで考えることすらなかった。

ある光景を思い浮かべていた。
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何十人という水兵が、
船底に近い作業場の長いテーブルに向かって、
毎日、何時間も何時間も黙々とパラシュートを折りたたみ、
丁寧に詰めている姿を。
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言葉を交わすことすらないパイロットたちの、
しかし、間違いなくその運命を左右する仕事を
彼らは黙々とやっていたのだ。
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チャールズは言う。
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人はみな、気づかないうちに
誰かにさまざまなパラシュートを詰めてもらっている。
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物理的なパラシュートだけではなく、
思いやりのパラシュート、
情緒的なパラシュート、
そして、祈りのパラシュートを。
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チャールズは思い返していた。
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落ちていくジェット機の中で、
必死の思いでパラシュートを開いたことを。
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そして、
投獄されてからの苦しい年月の間、
家族のことや友人たちを想うことによって
どれほど自分の心が勇気づけられたのかを。

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命を左右するパラシュートを誰かがつめています。
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人にはみな、さまざまなパラシュートが必要です。
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肉体的なパラシュート、精神的なパラシュート、
ビジネスにおけるパラシュート…。
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わたしたちが平凡な1日を過ごしている陰には、
必ずパラシュートをたたみ、
詰めてくれる人がいます。
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それを忘れてはいけない。
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当たり前ではないこと。
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感謝を持つことの大切さ。
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大事なことは見えないところにあるのです。
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▶︎著者：高野登さん
『百年思考~ホスピタリティの伝道師が説く「日々の在り方」』
『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』より