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もう一枚の名刺。

「あっ。それでわたし、こういうこともやっておりまして」

名刺交換するとき、そんなひと言とともに「もう一枚の名刺」をいただく機会が増えてきました。副業だったり、NPO的ななにかの個人活動だったり。映画『蘇る金狼』の松田優作さんみたいに、ふだんは実直な務めびとでありながら、もう一枚の名刺では思いっきりふざけた活動をされていたり、ふざけているはずのひとが実直な肩書きをもたれていたり。

いまや学生さんでも名刺を持つ時代。ぼくは名刺って、自分の現在地を見つめなおす、けっこう便利なツールだと思っています。

たとえばぼくの肩書きは「ライター」です。名刺にもそう書いてあります。それで、仮に個人的に自分がもう一枚の名刺をつくるとしたとき、どんな肩書きだったら堂々とそれをひとにお渡しできるのか。

「編集者」という名刺はつくれそうです。「ディレクター」の名刺は、なんかぼんやりしているものの、どうにか名乗れそう。「コピーライター」は無理ですね。コピーをつくるお仕事もやったことあるにはあるけど、とても名乗れるとは思えない。「作家」は、うーん。ごくまれにそう書かれることもあるけど自分から名乗るのはむずかしいなあ。「著述家」みたいな肩書きも、ぼくには厳しいですかね。「CEO」はぜったい無理。「評論家」とか「批評家」は、たとえ音楽〜とか文芸〜とかの冠がついて、そういうお仕事をやったとしても、ちがうなあ。ぼくの立場は感想家に近い。あとはなんだ、「愛犬家」なんて肩書きもたのしいけど、愛は仕事じゃないからね。「ブロガー」も、ちがうなあ。ぼくが毎日書いてるこれは、ほとんどおしゃべりに近い感覚で。あと、「エッセイスト」や「コラムニスト」とかの ist がつく肩書きは、なんとなく堅苦しい感じがして、それだったらライターの語尾につく長音のまぬけさを、大事にしたい。


まあけっきょくはライターに戻ってくるわけですが、そのへんぜんぶひっくるめてライターなんだというか、あんまり「ライターだから、ここまではやる」「ここから先はライターの仕事じゃない」とか決めず、境界線はふわふわした点線にしておいたほうがいいんじゃないかな。あたらしい肩書きを発明する必要があるとも思わないし。

じゃないとたぶん「吝嗇家」になっちゃいますよ。