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やっぱり、きてよかった。

ほんとうは北海道のことを先に書くべきなのだろうけれど。

かたちから入りたがるぼくは、幡野さんがネパールで使っていたものと同じミラーレス一眼レフのカメラを購入した。幡野さんがあれほど口を酸っぱくして「写真家と同じカメラを使っても写真がうまくなるわけじゃない」と言っているのに、我慢できずに買ってしまった。最近のぺだるの写真は、ほとんどこのカメラで撮影している。


北海道で対面した幡野さんに、「これ、真似して買っちゃったんですよ」とかばんからカメラを取り出して見せた。するとカメラを見た幡野さん、間髪入れずにこう言った。


「あ。レンズのふたは付けちゃダメです。ちゃんと保護フィルター付けてるんですよね? だったらレンズのふたはいりません」

「えっ? でも、うちの犬、レンズ舐めたりしますよ」

「舐められて曇ったレンズで撮った犬の写真、きっといいと思いますよ」


はあー。そういう考え方もあるのかあ。感心してると幡野さんは続けた。


あと、カメラはかばんに入れちゃダメです

「えっ?」

かばんに入れるだけ、そしてレンズにふたを付けちゃうだけで、写真の数は圧倒的に減っちゃいます。いつも首からぶら下げて、ふたを外しておくだけで、もっと写真を撮れるようになりますよ


すごい。

いや、もしかすると写真をやる人にとっては当たり前の話なのかもしれないけれど、ぼくは心底感動した。自分の専門分野について、まったくの専門外の人に対して、こんなふうにやさしく実践的なアドバイスをすることができたなら、どんなにいいことだろう。そう思った。

でもたぶん、ぼくはネパールやその他のいろんなところで、幡野さんが「そうしている姿」を見ていたはずなのだ。レンズのふたを外したままで、ずっとカメラを首からぶら下げていた幡野さんを見ていたはずなのだ。見ていたけれどそれを意識化できていなかったのだ。なにをしていたんだ、おれ。

時間にして1分にも満たないやりとりだったけれど、なんだかものすっごく多くのことを学んだような気がする。いま書いている本にもけっこうな影響を与えそうなほど、ぼくには大事な出来事だった。


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きのうは、帯広のすてきなホテル「ホテルヌプカ」で、いつもの面々とトークショーのようなものをおこなった。大勢の方々がきてくださり、ぼくらのとりとめのない話をあたたかく聞いてくださった。幡野さん、鴨さん、泰延さん、永田さん、ぼく、の誰かひとりを目当てにきた感じではなく、誰のどんな発言にも等しく(やさしく)耳を傾けてくださる来場者のみなさんが、ほんとうにありがたかった。こういうあたたかさのある会場は、意外と少ない気がする。

何度となく会って、うんざりするほどたくさんのおしゃべりをしてきたはずの仲間だけれど、こうして場をあらためて話すと、お互い「えっ、それ初耳だよ」みたいな話がたくさん出てくるからおもしろい。

もともと北海道胆振東部地震から1年というタイミングで、復興をテーマに訪れたはずなのに、みなさんから「大丈夫でしたか?」と心配される状況になってしまった間抜けさもまた、よかった気がする。


きょう1日、帯広でいろいろやって(なにをやるかはまだ知らない)、夜には東京に戻ります。