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なんの話をしてんだか。

たとえば今日のような日に、ずいぶん寒くなってきましたね、と書く。

十分に成立する話で、まったくそのとおりですなあ、なんて賛同を得られる話題でもあると思う。また、季節の変わり目という共通項から、紅葉について語ったり、ブタクサ花粉症について語ったり、コンビニおでん、定食屋のカキフライなどについて語ることも可能だ。語ればまた、そこから次の話題に転がっていくだろう。おもしろい話につながることもあるだろう。

けれどもまあ、できれば「ずいぶん寒くなってきましたね」なんて挨拶からはじめたくない。なんでもいいから冒頭は、「えっ、なんの話?」みたいな場所から書き出したい。たとえ結論(出口)が同じだったとしても、入口はどこか遠いところに立ててみたいのだ。

◇  ◇  ◇

たとえば最近、会社近くのコンビニで買いものをすると、レジ横に設置されたくじを引かされる。当たりが出ればペットボトルの緑茶がもらえたり、新発売の缶コーヒーがもらえたり、菓子やらパンやらがもらえたり、なんかするのだ。

そうだ、思い出したぞ。ぼくは気仙沼のコンビニでくじを引き、なぜか安ワインを1本引き当てたことがある。その日のうちに飲むならおつまみを追加購入しなきゃならないし、ひとりで飲み干すのも難儀だし、かといってかばんに入れて東京まで持ち帰るのも重たいし、そもそもそれほど立派なワインにも見えないし、ひどく困ったことをおぼえている。

コンビニくじのイベントで、そういう「ほしくないものが当たってしまうこと」よりも嫌なのが、「ほしくもないのに『ハズレ』を引き当てること」の理不尽さである。ワクワクして引いたハワイ旅行のくじが外れる。「ちっくしょー!」なんて叫ぶ。それはいい。外れることも含めて、立派なエンターテインメントだ。しかし、今日は時間もないからコンビニめしで済まそう、なんて出かけたコンビニエンスストアで、急いでいるのにくじを引かされ、一方的に「ハズレ」を宣告される。アンラッキーなおれ、不運なわたしを、突きつけられる。なんというかこれは、一種の巻き込み事故みたいなものだろう。いやいや、べつにほしくねーし。と口を尖らせたところで負け惜しみにしか聞こえず、どことなく「ツイてない人間」として、その日を過ごさなければならない。


臆病者なうちの犬は散歩中、突如として通行人にわんわん吠えだすことがある。とくに黒い服を着た男性と立ち止まってスマホを操作している人が怖いようで、急にわんわん吠えはじめる。

吠えられた人は嫌だろうなあ、と思う。

だって「なにげなく歩いていたら、急に犬に吠えられた」と書かれた日記なんて、誰がどう見たってアンラッキーな一日の日記だ。その日に起こったすべてを台なしにする、不吉な予感さえ漂う日記だ。

通行人にハズレくじを引かせないよう、ぼくは犬に声をかけ、おだてながら散歩する。

いいこ。いいこ。ほんっといいこ、と。

犬が臆病なのは、やっぱりぼくが臆病だからなのかなあ。