ぼくはむかし金髪だった。
二十代のある時期、ぼくは金髪だった。
なにがきっかけで金髪に染めたのか、なにひとつ憶えていない。そして金髪から黒髪に戻したきっかけも、やはり思い出せない。ただ憶えているのは、一度金髪にしてしまうと「金髪でない自分」がひどく凡庸でつまらない男に感じられ、なかなか黒髪に戻す機会を失ってしまうということ。また、若い金髪のフリーライターは世間の皆々さまから思いっきり舐められる、という事実だ。
でも、当時「こんな頭じゃ舐められる。仕事にも支障をきたす。いますぐ黒髪に戻そう」とは思わなかった。むしろ、周囲から「金髪だけど、すごい」といわれるようにならなきゃダメだと思っていた。
つまり、当時の自分は、逆接のフックがほしかったのだ。
「Aだけど、すごい」のAを求めた結果、たまたまそこに代入されたのが金髪だっただけで、べつにそれは「アフロヘアー」でもよかったし、「お相撲さんみたいな体型」でもよかったし、「いつも半ズボン」でもよかった。
ぼくが「金髪だけど、すごい」になれたかどうかはともかく、「金髪だけど、書ける」という評価だけは定まってきた。そしてそのころ、自分が金髪である理由もなくなり、黒髪に戻したんじゃないかという気がする。
キャリアのおもしろさは、この「逆接のフック」にある。
あたまでっかちに設計したキャリアは、つい順接のかたちをとってしまう。つまり、「東大だから、すごい」とか、「あの資格を持ってるから、すごい」とか、「あの企業に勤めてるから、すごい」というように、謎や驚きがなんにもない一本道のキャリアを設計しようとする。
すごい人の条件がどんなものであるかは知らないけど、おもしろい人の条件のひとつには「逆接の数」を挙げてもいいんじゃないかなあ。
「あの人、見た目は○○だけど、仕事になるとすごいんだよ?」
もう、これだけでおもしろいですよね。
えー、はい。
きょうは「金髪だけど、すごい」の代表格、津田大介さんとお会いしていたのでした。