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もう貧乏じゃない、の瞬間。

ときおりぼくは、むかしを振り返って「あのころは貧乏だった」の話をする。


自分のなかに明らかな貧乏フリーランスの時代があり、逆に言うと「おお、おれも金持ちになったもんだなあ」と思えた瞬間がある。感じ方や定義は人それぞれだろうが、ぼくの場合は国民年金を払えるようになった瞬間が、それだ。恥ずかしながら20代の数年間、ぼくは年金を滞納していた。合コンで知り合った女の子に「それはちゃんと納めなきゃダメよ」とたしなめられ、「いまはそれでよくても、将来どうするつもりなの?」と問い詰められた。金髪頭のぼくは馬鹿野郎、てめえこそ○○○なんかに勤めやがって、将来どうするつもりなんだ、と心のなかで叫びつつ、へらへらしながら「どうするんだろうねえ」なんて笑っていた。

そんなぼくも髪を黒く染め、いわば大人になり、ついに国民年金を納付できるだけのゆとりができた。金銭的ゆとりというよりも、それは精神的なゆとりに近かったのかもしれない。区役所に出向き、未納分もさかのぼって支払いを終えたとき、ぼくは「これでおれも一級市民だ。なんら後ろ指をさされるおぼえはない」と胸を張った。以来、収入が増えても減ってもぼくは「もう貧乏じゃない」と思いながら生きてきた。「だって、年金払ってるんだぜ?」と。


まあ、なかなか共感も賛同もしてもらえない、それどころか怒られるかもしれない話だけど、きのう大きめの税金を払ったとき、あの板橋区役所の風景を思い出したのでした。気持ちよかったんだよなあ、あれ。