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年末のご挨拶に代えて。

どういう理由なのかわからないけれど、ひとまずとてもいいことだ。

まわりで、きのう——つまりは12月26日の木曜日——を仕事納めとする会社が多かった。「へええ。なんで木曜なんだろうね」なんてことをオフィスで田中さんとしゃべっていた。そして上司として、あるいは経営者として、やさしさや懐の深さのつもりでカレンダーを見つつ、「田中さん、30日と31日は休んでくださいね」と言った。数秒の沈黙後、おどろきあきれたように彼女は「……当然、そのつもりでおりましたけれども」と答えた。そして、こう続けた。「古賀さんも、30日と31日は休まれたほうがよろしいかと」。

というわけで本日は、仕事納めである。

大掃除はできなかった。やろうという発想さえ、起きていなかった。荷物や書類を片づけるよりも先に、仕事を片づけなきゃいけない。原稿の山を、片づけなきゃいけない。そういう会社なのだ、うちは。


株式会社バトンズ、設立5周年。


2015年の1月に設立した株式会社バトンズは、年が明けると設立5周年を迎え、6年目に突入する。仕事納めの本日をもってまる5年が経過したといってもいいだろう。やりたいと思っていたことの半分もできていない気がするけれど、できると思っていなかったことも、たぶんできている。いくつかの深刻な反省点はありつつ、ここでこうして大掃除だの仕事納めだのといった話ができている自分らを、ちょっと誇らしく思えたりもする。ちいさな事務所とはいえ、会社が5年続いただけでもよろこぶべきことだ。そして創業メンバーである田中裕子さんと、一度もギスギスした関係にならなかったこともありがたいし、感謝したい。


やりたいことを、やるために。


先日、カッキーこと柿内芳文氏と長い時間をかけて話し合ったとき、「やりたいことを、どう続けていくか」に話題がおよんだ。たとえば編集者のなかには、3冊つくるうち2冊を「二番煎じでもいいから、売れる本」にして、残り1冊を「売れなくてもいいから、やりたい本」とするなど、食うための仕事とやりたい仕事を切り離して考えている人も少なくない。けれども、そんな片手間感覚で「売れる本」がほいほいつくれるかといえば、そう簡単な話でもなく、結果として「やりたい本」をやれるのは5冊のうち1冊になり、10冊のうち1冊になり、果てにはゼロになっていく、といった編集者をぼくは何人も見てきた。

カッキーと話した結論は「けっきょく、ロングセラーをつくることだよね」だった。何年経っても、あたらしい読者が手に取ってくれる本。5年後の読者、10年後の読者、20年後の読者にまで、新鮮なおどろきをもって読んでもらえる本。そういう本が、ぼくらの今年や来年を育て、5年後や10年後を育てるんだよね。と、そんな話をしていた。金銭面にかぎった話ではなく、はじめての読者との出会いが日々そこにあるというだけで、ぼくらは元気をもらえるのだ。そしてほんとうのロングセラーをつくるとしたら、それは自分を信じて「やりたい本」をつくっていくしかない。


ぼくが「本」を信じる理由。


この本の話はなるべく控えておきたいのだけれど、今年は『嫌われる勇気』の国内発行部数が200万部に到達した年でもあった。100万部に届いたときにもおどろいたけれど、200万部という数字はちょっと、予想を超えすぎている。たくさんの方々に読んでいただいて、またとてもたくさんの感想を寄せていただいて——出版社に送っていただいた感想ハガキ等は、すべてPDF化して転送してもらっています——ほんとうにありがたいかぎりなのだけれど、ほんとうに助かっているのは、この本の存在がぼくにとって「本というコンテンツの力」を信じる源泉になっていることだ。


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(2019年 年間ベストセラー・ビジネス書部門 日販調べ)


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(2019年 年間ベストセラー・ビジネス書部門 トーハン調べ)


いろんな方々から「こんな本、ないですよ」と言っていただくのだけれど、2013年に刊行された『嫌われる勇気』は今年も年間ベストセラーのベスト5(ビジネス書部門)に入っている。これがぼくに、どれだけ「本というコンテンツの力」を信じさせてくれていることか。どれだけ「本」に軸足を置く根拠をつくってくれていることか。刊行時に「10年後の古典をつくろう」と言い合っていたのだけど、いまではもう2023年にもこの本があたらしい読者と出会っていることを、ぼくは確信できている。また、最近『20歳の自分に受けさせたい文章講義』についても、愛読者だという方々との出会いに恵まれ、こちらの息の長さにも感謝している。


そして、来年。


来年、2020年にはまたあたらしい「10年後の古典」を刊行する予定です。

みなさん、よいお年を。

そして来年もよろしくお願いします。