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その先の、さらに先の、もうひとつ先にある光景。

天才のあたまのなかは、こうなっているのか。

現在 NewsPicks で連載中の「イノベーターズ・ライフ 糸井重里」を書くにあたって、たくさんの資料を読んだ。糸井さん関連のものだけではなく、横尾忠則さん、土屋耕一さん、吉本隆明さん、岩田聡さんなど、糸井さんの「ライフ」に登場するさまざまな方々の本や記事をたっぷり読んだ。

そのなかで、直接連載には関係なかったものとして任天堂公式ページの人気コンテンツ「社長が訊く」シリーズがある。前社長の岩田聡さんが、宮本茂さんをはじめとする社内外の開発スタッフに、プロジェクトにかけた思いや開発秘話を訊いていく、抜群におもしろくも途方もない連載だ(ちなみにまだ、全部は読めていない)。


ゲーム音痴のぼくが読んでも、いずれの回もおもしろい。なかでも「それはすげえな!」と驚いたのが、『スターフォックス64 3D』に関する開発秘話だ。

『スターフォックス』シリーズは、キツネの「フォックス」を主人公とする、本格3Dシューティングゲーム。

ここでおもしろいのが、「そもそもどうして主人公をキツネにしたのか?」に関する開発秘話だ。宮本さんはこう語る(任天堂「社長が訊く『スターフォックス64 3D』」第3回より引用)。

宮本
あの当時、日本でSFものをつくろうとすると、ロボットアニメものか、戦隊もの、あるいは怪獣ものになる傾向が強かったと思うんです。
でも、自分としては、それらと同じことをするのは、なんだか面白くなかったんです。
宮本
僕は昔から動物のキャラを描いていたこともあって、今村さんに「動物のキャラを出すのはどう?」と言ったんです。今村さんは「えーっ!?」とビックリしてましたけど(笑)。
宮本
「シューティングゲームに動物のキャラを載せるのはどうかなあ」という話にもなったんですが、「逆にインパクトがあるだろう」ということになって、「何の動物を出そうか?」と考えることにしたんです。

ここまでの話は、まだわかる。問題はここから先だ。

宮本
で、僕がそのとき考えたのが、『スターフォックス』では、戦闘機でゲートをくぐっていくシーンが多いんですけど、くぐるといえば、鳥居ですよね。鳥居といえば、千本鳥居の伏見稲荷大社やし、その頃の試作にも、そこをくぐっていくようなシーンがいっぱいあったんです。それで、伏見稲荷といえば、やっぱりキツネやなあと。

このゲームの戦闘機は、ゲートをくぐっていくシーンが多い。

くぐるといえば鳥居。

鳥居といえば、伏見稲荷大社。

伏見稲荷といえば、キツネ。

主人公はキツネにしよう。


……なんという連想ゲーム!

もうこの時点でひっくり返るのだけど、もっともっとすごい話によって、正座させられることになる。

岩田
スーパーファミコン版のパッケージは実際にマペット(人形)をつくって
それを撮影したものでしたけど、どうしてあのようなデザインにしたんですか?

宮本
僕はもともと『サンダーバード』とか、イギリスの人形劇が大好きで。

岩田
はい、わたしも大好きです(笑)。

宮本
で、この話は発売当時に妄想してたんですけど、もし『スターフォックス』がたくさん売れたら、『サンダーバード』の制作会社が「人形劇にしたい」とイギリスからはるばる交渉にやってくるんじゃないかと。

岩田
はい(笑)。

宮本
そのとき僕は言うんです。「じつは僕、『サンダーバード』が好きだったんですよ」と。そう言いながら、ライセンスするというのは「夢のようやなぁ・・・」って。まあ、夢のままなんですけど(笑)。

ここまで具体的なシチュエーションと自分の感情を「見た」うえで、目の前の仕事に取り組むこと。「大ヒットしたらいいなあ」とか「100万本売れたらすごいよね」とかじゃなく、もっともっとプライベートな思いをもって、その妄想にニヤニヤ照れたりしながら、目の前の仕事に取り組むこと。

あの、戦闘機がゲートをくぐる姿からキツネを発想していくプロセスは、もしかすると「天才」にしかできないことなのかもしれない。ぼくにはできそうもない。でも、この、プロジェクトが進んでいった先の先の先にある「夢のようなワンシーン」を思い描くことは、才能の違いというよりも、意識の違いであるような気がする。少なくともぼくは、ここまでの具体をイメージしようという意識は、持っていなかった。

いやー、この「社長が訊く」シリーズはすばらしいアーカイブだなあ。もっともっとむさぼり読んでいきたいです。