わたしのものではないすべて
エリカが男と別れたいから話を聞けと言ってきた。
呼び出された店で理由を聞いて可笑しくなる。
「だってさぁ、漬物ばっかつくってんだよそいつ」
「いいじゃん。わたし好きだよ漬物」
そういうんじゃなくて、とエリカは言う。
「この前なんか、その時間に連絡するって言ってたのに全然LINE返してこないの。1時間くらいしてやっと既読ついてさ。何してたのって聞いたら、漬物つけてて見れなかったっていうんだよ。どう思う?」
どう思うって言われても正直困るんだけど、と思いながら曖昧にムカつくよねとか言ってみる。
でしょ。でさぁ、とエリカのよくわからないムカつきトークをなんとなく聞きながしら、その彼のつけた漬物の味はどんなのだろうと想像してみる。
エリカはたぶん食べたこともないし、食べたいとも思わないのだろう。
私は漬物をつける男と出会ったことはないので、それが二人の関係にどう影響するのかはわからない。
何も影響なんてないのかもしれない。しらないけど。
エリカやわたしがどう思おうが、彼はきっと漬物をつけ続けるのだろう。
*
なんでエリカはそんな男と付き合うことになったんだっけ。聞いたような気もするけど忘れた。
たぶんエリカのことだから、いつもみたいに、彼がたまたまほのめかした漬物づくりの趣味なのか何かわからないけど、えーすごーい!とか適当に褒めまくったんだろうな。興味なんてないのに。
そんな漬物を一度食べてみたいと、わたしがエリカの彼に言ったらどうなるのだろう。
彼は、あっさりいいよと言ってくれる気がする。本当に、ただ彼の漬物を食べさせてもらうだけ。
わたしは想像する。彼の部屋で彼の漬物を食べるわたしを。
わたしのものではないすべてをわたしのものにすることを。
エリカがお手洗いに行くために席を立つ。わたしは彼女のスマホにそっと手を伸ばす。