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拳銃の悩みについて

誰にだって人に言えない悩みはある。この国にもいろんな人がいるのだから、どんな悩みだって存在理由があるのだろう。と思う。


もう今では撤去されてしまっているのが残念だけど、とある駅前に《拳銃の悩みでお困りの方へ》と記された電話相談の看板があった。

ほとんど誰も気に留めない中で(まあ、だいたいどんな看板もそうだけど)、僕はそこを通るたびに気にしていた。

といっても、僕が法に問われるようなものを所持していたりということではもちろんない。そもそも「拳銃の悩み」というカテゴリーの悩みが存在するのだろうか? という根源的なところがずっと気になっていたのだ。

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だいたい拳銃の悩みってなんだよ。Amazonで拳銃の買い方がわからないとか、友達に貸した銃をなかなか返してもらえないとか、いつも狙撃に失敗して課長から「つぎ、もうないからね」と通告されてるとか、そういう悩みではないのだろう。

それに、相談されたほうだって困ると思う。銃の扱い方なんて、なかなか電話では説明しにくくないか。あ、それじゃ、お伺いして現物で説明しますからとかになるのだろうか。

電話相談したくなる人がいたとしても、きっとなかなかつながらないんだろうなと思ってしまう。ほとんどのコールセンターがそうであるように。

「自動音声で応答します。拳銃の扱い方については“1”を、不要になった拳銃については“2”を、その他の拳銃の悩みは“3”を押してください」

やっとつながったと思ったらオペレーターの人が奇妙なイントネーションの日本語で話してきたりするのだ。そう考えると、やっぱり拳銃の悩みは人には言えないよなと思う。

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だとしたら、あの《拳銃の悩みでお困りの方へ》の看板は、誰に何を訴えていたのだろうか。

電話がかかってこないことにがっかりした当局が看板が撤去したからといって、拳銃の悩みが尽きたということでもないはずなのに。


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熊にバター
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