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イヌリンの秘密

先生が転校生を連れてきた。背のちっちゃな女の子だ。自己紹介をしなさいって言われても、じっとうつむいてる。

仕方がないので先生が、みんなに仲良くするように、じゃあ席は、またちゃんと席替えするからとりあえずモトヤの隣、教科書も見せてあげるようにって言って授業を始めた。

え? まじ? 俺の隣かよとか思ったけど文句を言うのも面倒だし、なんか意識してるみたいでいやだったので席をくっつけて教科書も転校生にも見えるように真ん中で広げてやった。

                *

後ろの席のヤツが冷やかすかのように消しゴムをちぎって投げてきたので、俺も投げ返そうとして、後ろを振り向いたとき、一瞬、転校生の髪の毛に何か白いものがくっついてるのが見えた。

白い犬。犬のカタチそのまんまの髪留めなんてはじめて見た。

「おまえ、犬飼ってんの?」

転校生は何も言わず、悪いことをして謝るみたいに少しだけ頷いた。

それきり転校生は何も反応せず、じっとうつむいていたので、俺はなんか余計なことを言ってしまった気がした。


給食の時間になったとき、転校生の姿は教室から消えていた。

なんだよ、いきなりバックレかよとか思ったけど、給食に出てきたヨーグルトのふたを見てドキッとした。白い犬。転校生が髪につけてたのと同じ白い犬のマーク。

俺はびっくりして、他のヤツに、なあ、この犬しってる? さっきの転校生がアタマにつけてたのと同じなんだぜ、と言ったけど、何言ってんだよって顔を返された。


だって、さっき……。そう言いかけて、自分の席を見てお腹がギュッとなった。転校生の机がない。

俺はひとりで夢でも見てるみたいに、教室を見渡し、やがてあきらめて給食を食べ始めた。

しばらくして給食委員のタナカが、おかしいなぁ、ヨーグルトひとつ余ってるよ、とぼそっと言った。

                *

俺は余ったヨーグルトをもらい、5時間目のあいだ中、机の上でぼんやりとながめていた。


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熊にバター
 日常と異世界。哀しみとおかしみ。ふたつ同時に愛したい人のための短編集(無料・随時更新)