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ネットの買い物に何が足りないか分かった話

洗濯機がお亡くなりになった。

前兆はあった。この数か月、何度か同じ現象が起きていてエラーコードを調べたら、すごく微妙なものだった。

乾燥機部分の内部のセンサーがどうたらこうたらというもの。接触不良を起こしたか断線してるらしい。センサーを交換するのが正解というのは分かった。部品も千数百円ほどで手に入る。まあ、それほど重症なエラーではない。

ただ、毎回エラーが出るわけでもないので、再起動的なことをしてたらしばらくふつうに使えていたのが、ある朝、完全にエラーから先に進まなくなったのだ。シーケンス制御されてると洗濯機能に何も問題なくても使えなくなる現象。

メジャーなメーカーの家電なので、どこかに同じような現象の人いるだろうなと思ってネットを漁ったらやっぱりいた。

ただ、なぜか出てくる情報が偏ってる。一般の人がそのエラーで困って修理を頼んだ話ではなく、電気周りの工事のプロ(家電屋ではない)がメーカーのサポート経由しても塩対応だったので、自分でどこからか部品展開図を取り寄せ、洗濯機の入れ子構造になってる隠しネジを開け――みたいな話。

ふつうに修理を頼んだらどうなるのか知りたいんだけど。まあ、自分でもできなくはなさそうだけど、正直、そこにかけるエネルギーと時間がない。仕方ない。買い換えるか。

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ここで、いつもなら価格.comを開いたりするところだけど、それも面倒だなと思った。

自分で調べて、自分で判断して、自分で選ぶ。パソコン周りとかガジェット系ならそっちのほうが速いけど「洗濯機」はほぼ何も知らない。というか興味が薄い。

なのにゼロから調べる気にはならない。そりゃネットで買ったほうが安いさ。それはわかってる。でも、何を買えばいいんだ?

洗濯機にだって、きっと自動車みたいに「コンパクトで燃費もエコでしかも広々なんです」「どんな道も選ばないタフな相棒」みたいな種類というか個性があるんだろう。よくわからない。

全然、間違ったものをよくわからずに選んだりしたら、選んだ自分も選ばれた洗濯機も不幸だ。

これはもうネットじゃなく「人」だな。家電量販店に行って、人から買おう。もちろん、家電量販店だからってすごく詳しくて親切な人に出会えるかどうかはわからない。家電量販店のスタッフ事情もアレな部分があるけど。

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うちからいちばん近い家電量販店の売り場をうろうろしてると、どこからかM-1の出囃子が聞こえた(気がした)。

いや、これほんと真面目に「はい、どーも!」な感じで僕らの前に店員さんが飛び出してきたのだ。都会ではあまりそういうの体験したことがない。

「はい、洗濯機、目の前にいろいろございますね~」

いきなり店員さんのステージが始まった。これ何ラウンドなんだろうか。上沼恵美子さんは大丈夫だろうか。


「洗濯機覗きこんでみたくなります! が、しかし!! ここで展示されてる洗濯機、どれだけ眺めても音もしなければ水も出ません。それでいったい、どうやって選べばいいのかわからない」

その通りだ。というか、なんなんだこのつかみ。

「みなさん、こうおっしゃるんです。『店員さん? 結局どれがおすすめなんですか?』 と。ごもっともです。なので、いまからこの私が、ここにある4つのメーカーの特徴をそれぞれ申し上げます」

まさかの洗濯機講座だ。まったく知らなすぎるので、いい機会だから乗っかろうと思った。

具体的にメーカー名を出すとあれだけど、こんな感じ。

H社は「叩き洗いでいちばん汚れが落ちる」、T社は「モーターと重心が下部にあるので箱全体の振動が少ない=洗濯機の音のうるささはモーターではなく箱全体の振動しやすさ」、S社は「穴のない洗濯槽が独自で洗濯槽自体の汚れが少ないが、穴がない分、脱水で水の出口も少ないので脱水力は甘め」、P社は「とにかく節水。エコ制御も進んでるが4社の中では大量の洗濯物には弱い」

あくまで、その店員さんの個人的な説明であってそれがすべてではもちろんない。いろんな家電メーカーの販売講習会での情報や実際にお客さんからヒアリングする情報を総合すると、まあだいたいそんな感じらしい。

noteだからかなり端折ってるけど、実際はこの300%ぐらいの情報量をもらったのだ。笑いも交えながら。

これ、ネットでもし、これだけの情報量がポップアップ的に出てきたら、まず間違いなく閉じてる。そんなの読まない。離脱する。だけど、目の前の「人」からM-1のステージばりのテンポの良さと温度で話されたら聞けてしまうのだ。


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結局、僕らはその店員さんからの情報をもとに洗濯機を選んだ。渡された名刺を見ると、お笑い店員さんだと思ってたら「店長代理」だった。

「これにします」と伝えると「買いたい気持ちはわかりますが、トータルの費用も確認しましょうね」と言う。まあ、そうだ。本体価格だけでなく、リサイクル料や壊れた洗濯機の引き取り料金もかかる。

まあ、これぐらいまでなら仕方ないかなと金額をイメージする。

で、しばらく待って出力された用紙を見たら、売り場の表示価格よりさらに安くなってた。最後まで話を聞いたからかもしれない。

そのあと特に何も言ってないのに「これでも、私、役が付いてますから」とさらにそこから小さくない額の値引きもしてくれた。びっくりだ。最終的にはネットのどの価格よりも安くなってたのだから。

なるほど、と思った。

前提になる情報を持ってない分野では、べつに「受け身」でもいいのだ。いや、むしろそのほうが結果的にいいベネフィットが得られる。

ネットの時代になってから情報に受け身では駄目なんだと散々言われてきたけれど、対「人」の世界では受け身でいい感じに進むこともある。最近、ネットの買い物に「何か足りないな」と思ってたものをリアル店員さんが持ってたわけだ。

だからって、たぶんこれからもネットで買うことはなくならないのだけど、ちょっとリアル店舗での買い物も見直してみてもいいのかもしれない。たまに想像を超えてくる体験があるから。

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