寄り道したいだとか
寄り道が好きだ。ある場所からある場所へ。最短距離がわかっていても、どこかで逸れて寄り道したくなる。
おかしいなと思う。せっかく近道を探したのに。いや近道を確認できてるからこそ安心して寄り道したいのかもしれない。
この前も期せずして寄り道をしてしまった。隣町に用事があって車で走っていたらいつもの近道が通行止になっていた。台風被害で橋が落ちたのだ。
知ってはいたけど、たしかすぐ側に迂回路があったよなとうっすらした記憶を頼りに走ってたら、思いの外、山の中をくねくねと登り始めた。
引き返すにも道幅が狭すぎる。Uターンもできない。仕方ない。この辺りでは平常時でもよくある。ナビが嘘をつくのだ。
まあ、一応まったく土地勘のない地域じゃないしなんとかなるかと思いながらぐわんぐわんとカーブを曲がってると急に視界が開けた。
なんだ、やっぱりこの道でよかったんだ。こういうのももう慣れた。この辺ではよくある。林道みたいな道が急に途中から立派になるのだ。ファンキーだな。
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視界が開けたと思ったらなんだか変な感じだ。いい意味で違和感がある。ここはどこなのでしょうか。
よくヨーロッパの風景でこういうのあるよな(イメージ)。
白っぽい道の両脇に立派な葡萄畑が続いている。ワイナリーの敷地にいつの間にか入り込んだのだろうか。と思ってたら白い建物が見えてきて本当にワイナリーだった。それも最近できたばかりの。
用事はあるのだけどやっぱり寄り道する。ふらっと入れるのかどうかわからない。入れなかったら引き返す。
レセプションもあるようなないような。けれども《OPEN》と示されてるので、入っていいんだろう。人がいるようないないような。立派なディスプレイに本日の見学ツアーは満員云々のような表示も出ている。
なんとか博のパビリオンで出会うような、白いコスチュームのお姉さんが笑顔で歩いていて「夢かな」と思う。全体的に現実感が薄いのだ。
せっかく寄り道したのに手ぶらで帰る(というか本来の用事の目的地にも行ってない)のも勿体ない気がして「令和元年になったその日に初めて仕込んだワイナリー初収穫の初品種の」という「初づくし」の限定ワインを買ってしまう。情報が多すぎてよくわからない。でもきっとおいしい。
まったくそんなつもりもなかったのに、なぜかワインを連れて帰る。寄り道だ。楽しい。よく考えたら、ただワインを買っただけなのに。
もし、そのワインをふつうにどこかの酒屋さんで買ってたとしても、そこまで楽しくはなってないと思う。寄り道マジックだ。
人も、寄り道できる人と話したり取材するのは楽しい。浅生鴨さんなんかも寄り道が天才的だと思う。
話の途中で明らかに変なところに入っていって、ここどこだっけとキョロキョロして、でもまあ面白いからいいかと思って笑ってたりしたら、不意に本来、探してた場所に行き着いてお互いびっくりしたりする。
寄り道の多い人生。いいのか悪いのかわからないけど考えたってわからない。こんなこと考えてるのも寄り道なんだろうけど。