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ものかきのおかしみと哀しみ

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すれ違った人たち
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2020年11月の記事一覧

名前のない風になる

名前のない風になる

空港からの道は意外にアップダウンがあって、東シナ海が途切れ途切れに流れ去っていく。

晴れているのでも雲っているのでもない、不思議な空の色。こういう空模様を指す言葉を僕は知らない。

あえていえば、いろんな天気の境目を見ているような感じだ。

僕が、空ばかり見ていたせいなのか「この前、台湾坊主が吹いたから、もう暖かくなるよ」迎えに来てくれた民宿のお母さんが教えてくれる。

台湾坊主とは、この辺りの

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結局、ひとなんだと思う

結局、ひとなんだと思う

話したいなと思うひとがいる。人種性別年齢趣味思想そういうの、まったく取り払って。

なんだろう。あたまで「このひとと話そうかどうしようか、なに話そうか」なんて考えるんじゃなくて、もっと根源的なところからくるもの。

たぶん、そういうひとって表面的なレイヤーでは、とくに共通するもの共有するものもないんだと思う。趣味が同じとか(そもそも僕の場合趣味がよくわかってない)、共通の知り合いがいるとか、仕事の

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真ん中のドア/ STAY WITH ME

真ん中のドア/ STAY WITH ME

知らないうちに部屋にドアが出来てた。
部屋なんだしドアぐらいあってもおかしくはない。だけど違和感がある。

部屋の真ん中にドアがあるのだ。

そもそもドアを付けてほしいなんて頼んだ覚えもない。こういうのはどうしたらいいのだろう。軽く途方に暮れる。

ドアのポジションとしておかしくないか。ふつうは部屋の端、つまり、出入りする場所にないとおかしい。

真ん中のドアが何のためにあるのか。考えれば考えるほ

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或るライターの独白

或るライターの独白

年々、断絶が広がってる気がする。本をつくるときに、直接ではないけどよくその話になる。

本のつくり手と読み手の間に、なんとも形容しがたい断絶があるのだ。

なんだろう。本の中身というか本質とは別の次元で、かなり「わかりやすく単純化」したメッセージにしないと受け取ってもらえない。

もちろん、難しくて複雑なものに価値があって、それを理解できないのがダメとかそういうのではない。単純なものが深淵の入り口

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最短を卒業しようと思う

最短を卒業しようと思う

いろんな考え方やスタイルがある。自分はそうしようかなという個人的な話。どれが正解とも思わないし誰かに押し付けるつもりもない。

仕事してると、たまに「最短でお願いできませんか?」の依頼がある。取材や原稿アップだったり、構成や企画案出しだったり。基本的には書籍なので短くても半年~1年ぐらいのタームなのだけど、それより短いやつ。

それぞれにもちろんスケジュールだとか制作工程や関係者の事情があって「結

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猫に言葉が流れる

猫に言葉が流れる

実家の猫がしばらく元気をなくしてたときがあった。

健康状態的には問題なくて、ほんとにただ「元気がない」。3歳の猫なので、仔猫のときみたいに空を飛ぶことはないけど、それでも猫種的には野性味が強くて活発なタイプ。

なのにバッテリーがローな感じになってた。

心配っちゃ心配だったのだけど、まあ猫には猫の「何か」があるんだろうなとも思った。

なんていうか「思うところがある」というやつ。人間もそういう

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労働して疲れが溶ける現象

労働して疲れが溶ける現象

毎年、この時期にリンゴ農家さんの収穫お手伝いに行く。短い雑記。

流通への出荷用とは別に贈答用の「サンふじ」の収穫を手伝うのだ。ちょうど「リンゴの国」信州のトリを務める品種。

わらわらと各地から農園主の親戚が集まり(なぜその中にうちが混じってるのかは謎)、朝から一日がかりでみんなでせっせと収穫し選別し箱詰めまで行う。

のだけど今年はやはり事情が違った。遠方組が来れない。さらに諸々のアクシデント

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「求む」やる気のない方

「求む」やる気のない方

章介は逡巡していた。思ってもなかった求人を発見したからだ。

章介の特徴は「やる気のないこと」である。世間一般ではやる気のなさはあまり評判がよろしくない。

けれども章介は意に介してないのである。こんなに世の中にやる気が溢れているのだ。一人ぐらいやる気のない人間がいてもいいんじゃないか。

むしろ、そういう人間がいたほうがバランスが保てるってものだ。それぐらいに考えている。

以前の職場でも彼は、

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婚活とCIA

婚活とCIA

陰があるから陽が輝く。なんか怪しいこと言ってるみたいだけど、べつにそういう方面の話ではない。

ある編集者とオンラインでしゃべってたときのこと。彼は、音楽好きで、なんていうか陰のあるイケメンだ。彼が僕に言う。

「ふみぐらさん、婚活ってだいたいうまくいかないんですよ。なんでか知ってますか?」

「あ、いや。……婚活…?」

この話の先に何が待ってるんだ? 何のくだりからこうなったのかわからないけれ

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note同人誌《東京嫌い》帯コンテスト 11/18(水)19時に結果発表!

note同人誌《東京嫌い》帯コンテスト 11/18(水)19時に結果発表!

note界隈で「帯」と呼ばれる、Twitterでのnoteのシェア(引用RT)に付ける感想や紹介文。『東京嫌い』の各作品に対して帯を付けて紹介してくれたnoterさんの中から、責任編集三人がそれぞれささやかな賞を贈る企画。

ほんとにたくさんの投稿をいただきありがとうございました!

どの帯も、それぞれの「色」や「匂い」「音」、ことばにできない何かを文字通り帯びていて、責任編集の三人で何度も味わい

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他者への誠実な関心について

他者への誠実な関心について

難しいなと思う。他者に関心を持つことが。みんなどうやってるんだろう。今日も短い戯言。

そこそこ大人になってからも、社会人のカテゴリに属するようになってからも長くなるけどいまだに正解はよくわからない。

まあ、編集とかライティングの仕事をしてるのだから、他者に関心を持つ前提がなければおかしな話なんだけど。

前提をひっくり返すようなことを言うと、自分という人間の根源的なところを見つめたとき、そこま

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夜の入り口でサボテンは

夜の入り口でサボテンは

「暗くなるのが早くなりましたね」

打ち合わせからの帰り道。まだ明るい時間だったので、いつもは通らない公園の脇道に入ろうとしたところでサボテンに話しかけられた。

しまった、と思った。日没前の不透明度が半分ぐらい混じる時間帯はサボテンの活動が活発なのだ。

サボテンは知人にでも偶然会ったかのように話しかけてきて、不意をつかれた僕は、うっかり「あ、そうだね」と返事をしてしまった。

「もう立冬も過ぎ

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