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「感情教育(上)」 ギュスターブ・フローベール

山田𣝣 訳  河出文庫  河出書房新社


橋と唄


「感情教育」、第1部も終わり近く…なのか?
と、前にも出てきたセーヌ川に架かる橋がまた出てきて、前の場面ではアルヌー夫人に接近できて幸福感に浸っていたのに、今はなかなか進展しないと悩むところが出てくる(といっても、別に出入り拒否されたわけではないのだが)。この橋、これから先も物語の要所要所で出てきて、回想と構造の柱になる…そんな気がしてくる。
そんな気になる小道具は、他には唄。物語冒頭、フレデリックとアルヌー一家が出会った船上で聞いた唄が、(唄そのものは違うものの)仲間で出かけた屋外舞踏場?で回想される。これもまた…

絶対時刻のトンネル…


「感情教育」今日分。やっと第1部読み終え。
第1部は「1840年○月…」と始まり、そして終わりは「1845年○月…」と…この絶対時刻の2つの刻印に挟まれて第1部は展開していた。ちなみに、この間に絶対時刻記述は無し。

フレデリックとアルヌー夫人との間に、政治家のように直接的に人の感情に訴えかけるか、作家のように間接的に人の感情に訴えかけるか…という話題が出てくる。小説タイトルの「感情教育」の感情とは恋愛とか情緒とかそういうものばかりではなく、こういうのも含まれているのか。ひょっとしたら、フロベールも若い頃は…
それと、自然描写、ちょっとした光や臭いなどの取り上げ方もいちいち挙げるヒマもないくらい、いちいち巧い(笑)。
(2010 12/11)

「感情教育」第2部開始


ということで、「感情教育」も第2部へ。上巻には第1部と第2部が収められているのですが、第2部は第1部の1.5倍…ちなみに、第2部の開始には絶対時刻記述はなかった。
んで、主人公フレデリックはがむしゃらにアルヌー夫人を探して少し失望?した後、アルヌー氏に連れられて仮面舞踏会に出席する。その乱痴気騒ぎ描写が結構長く、そこで今日は終了。ここでは世俗的な書き方と幻想的な書き方の区別が曖昧化されているみたい。
(2010 12/13)

2つの旋律


「感情教育」第2部より。
まず、昨日読んだ部分から。珍しく作者フロベールが前面に出てきて、「この男(主人公フレデリック)進んで慈善活動をする男ではない」と語っている。まあ、冷酷でもなく慈善家でもないごく普通の人間(自分もそうです(笑))を主人公として取り上げるのは「ボヴァリー夫人」のフロベールの味。その頃よりも書く楽しみを味わう余裕がフロベールに出てきたのか…

そして今日の部分から。フレデリックが出入りするアルヌー夫人とロザネットという二人の女性が、フレデリックの中では荘厳な宗教曲と、急テンポな協奏曲にそれぞれなっていたという記述がある。が、重要なのはある一方の旋律を味わっていると、その端からもう一方の旋律が浮かんでくる…とあるところ。それにはアルヌー氏が二人に同じような家具や食器を与えていたという伏線も影響している…作品の構造的にもここは重要なところか。
これにも少ししたらダンブルーズ夫人も加わって三重奏になるんですかね…
(2010 12/15)

フレデリックの人生はまずまずうまく進んで、アルヌー夫人、ロザネットに実業家ダンブルーズ氏の夫人にまで手を出す…のか?前に読んだ「ベラミ」みたいな現時点…
(2010 12/19)

凱旋門から西日が差す時…


「感情教育」第2部、まあそのいろいろ…
アルヌー夫人のドレスが途方もなく大きく感じたという印象的な描写のあとで、夫人が既婚者との恋愛に否定的な意見を言ったことでフレデリックは腹をたてる。その翌日、もう一人の愛人?ロザネットと競馬場に出かける。

競馬場があらゆる人々が集まる場所で、小説内の様々な階層の人々がミックスする場というのは、ゾラ「ナナ」とも、ドストエフスキーの広場とも共通する場面装置。ここでも、アルヌー夫人やダンブルーズ家の馬車と遭遇する。
馬車は今の時代の車みたいなもので、帰りには各人それぞれの馬車がシャンリゼ通りを埋めつくす。そこを標題通り、凱旋門アーチから西日が差し込む(訳注によれば5月頃起きるという)。緻密な描写が読者を引き込む。

さて、フレデリックは当然アルヌー夫人とロザネットの間で揺れながらロザネットとカフェ(レストランみたい)で個室食事…ここで、アルヌー夫人と遂げられない運命を逆にロザネットに全面展開する…となればロマン派文学なのだろうけど(フレデリックはロマン派文学が好きみたい)、そうならずに「もう死にたい…」となってしまうのは、フロベールリアリズムなのだろう…結局、別に自殺しないし…全くもう(笑)。
疲れるね、この人(笑)。
(2010 12/21)

決闘のいつもの結末


今日読んだところのクライマックスは、フレデリックとシジーの決闘騒ぎ。だいたいこういう小説では尻切れトンボ的な決闘の結末になりがちだが…今回もそうだった(笑)。
(2010/12/24)

弦楽四重奏団に喩えると

「感情教育」の上巻を読み終えた。このペースでは年内読破(上下)は無理か…

上巻の最後は、第1部終了時と同じようにフレデリックの郷里帰還と地元のルイーズ嬢との話で終了している。なんか弦楽四重奏曲の楽章の終わりでチェロのピチカートの弱奏があるみたい…ルイーズがチェロ(一番幼いのだけれど)だとすれば、第1ヴァイオリンはアルヌー夫人、第2ヴァイオリンはロザネット、ヴィオラはダンブルーズ夫人…だろうか。
まあ、作曲家(フレデリック)があれなんであれなのだが(笑)。
(2010 12/25)

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