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【小説】私は空き家(西宮市築39年)1

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私は、兵庫県西宮市の築39年の空き家だ。
もうすぐ梅雨が明ける。そして夏がやって来る。
今年も静かな夏なのだろうか。

 

2年前から、夏のお盆の時期にも、家族が集まる行事がなくなった。
3年前の春、私のご主人様が認知症を患い、体調も思わしくないことから、施設暮らしとなった。
5年前の秋、奥様が他界されて以来、元気のない様子で過ごされていたご主人様。
奥様がいらっしゃらないことが、やはり相当応えたのだろう。

 

私――この家には、元々、6人家族が住まわれていた。
ご主人様、奥様、お子さんたちは上から長女、次女、長男、三女。それと、犬が一匹。
にぎやかな家族だった。
やがてお子さんたちが成長し、就職や結婚を機に一人また一人と巣立って行き、十数年前からは、ご主人様と奥様の二人で静かに過ごされていた。

それでも年に一度、お盆の時期は、かつてのにぎやかな日々が戻ってきた。
お子さんたちがお孫さんたちを連れて集まり、それぞれの近況や昔話に花を咲かせる。
ご主人様も奥様も、家族が一堂に会するお盆を、毎年楽しみにしておられた。

特に、留学で一番最初に家を離れた三女のきよみさんは、今はアメリカ暮らし。
お盆前に一足先に帰国し、家内や庭の清掃を手伝うなど、その一時を楽しみにされていた。

その年に一度のにぎやかな場面すら、今は昔。

 

一日中、電気の点かない部屋。
雨戸は閉まったまま。
手入れがされていない庭。
郵便物の溜まったポスト。

私は空き家となった。
3年前の春。あの日から、私は空き家になった。



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『私は空き家』とは

「空き家」視点の小説を通じて、【株式会社フル・プラス】の空き家活用事業をご紹介いたします。
※『私は空き家』はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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