FULL CONFESSION(全告白) 36 「文化庁長官・都倉俊一氏」最終回、または「特権意識病」

GEN TAKAHASHI
2023/2/1

基本的に映画作家・GEN TAKAHASHIの作文。

第36回 「文化庁長官・都倉俊一氏」最終回、または「特権意識病」

 私は2021年12月23日、第23代文化庁長官・都倉俊一氏(昭和歌謡曲の代表的作曲家。『ペッパー警部』など)宛てに、回答を求める意見書を送った。もちろん、メールではなく文化庁宛ての配達証明付き郵便である。
 内容は、文化庁の芸術文化振興基金による映画製作助成金制度が、東映、電通、テレビ朝日、朝日新聞、ソニー・ミュージック・エンターテインメントなどの上場企業が名を連ねる製作委員会映画にも運用されているという問題点について、大企業だけに利がある、不公正な当該制度の改革を求めるものだ。
 これまでの経緯は、本ブログ、下記2本の記事をご参照頂きたい。
 
第31回 文化庁長官・都倉俊一氏への意見書

第32回 続・都倉俊一文化庁長官

 記事を読むのが面倒だという人のために、内容を、ものすごく簡単にまとめよう。

 文化庁が設置した映画事業の助成金制度は「映画を作るカネが足りねえ」という映画に、いろいろと審査をして、インチキがなければ製作費を助成するというものだ。
 ところが、これは「晴れた日に傘を貸してカネを取る」銀行商法に同様の、企業にのみ有利な制度であって、真にカネがない独立系映画会社や個人映画製作者には、圧倒的に不利な制度設計になっているのだ。

 当たり前の話だが、上場企業は株式によって資金を調達しているのだから、映画製作事業の資金も、自社で調達することが当たり前である。そもそも映画会社は、1本の映画だけで事業をやっているわけではない。自社製作作品から、日本での配給だけを請け負う外国映画も含めて年間数十本の映画の利益と損失を連結決算することが普通だ。
 つまり、上場映画会社が、ある映画を製作しようとするなら、ヒットした映画の利益や銀行などからの事業資金融資を資金源にすれば良いだけで、国税も入っている文化庁財源を配ってやる必要も整合性もないのである。

 この文化庁映画製作助成制度の最大の問題点は、長編劇映画を製作する場合「1億円の自己資金が調達できている映画事業」に対して「2000万円」を交付するという制度設計と運用にある。
 言い方を変えれば「1億円の自己資金も作れない製作者」は制度の対象外なのである。いかにも役人が考える理屈で「1億も持ってないやつに、危なっかしくて2000万円なんてやれるかよ」というわけだ。

 しかし、映画製作の実務では、準備段階で1億円を調達できている映画が、あと2000万円足りないために「製作できない」などということはない。どうしても足りなければ、脚本を変更して予算を圧縮するロケ撮影をなくしたり、役者のギャラを含めた人件費を圧縮したりして、予算を2000万円下方修正、・削減して、調達済みの1億円だけで製作することが常識である。しかも、上場映画企業が1億円を調達することは容易だ。

 逆に、2000万円を調達することさえ命がけの個人映画製作者や小規模の独立プロダクションは、この「1億の壁」によって文化庁の助成金を得ることが非常に困難となる。
 要は、カネのあるやつらだけが、芸術文化振興の名を借りた余剰資金をぶんどれるという仕組みになっており、結果、経団連加盟の大企業らに対する「2000万円のおこづかい配り」同然となっているのだ。

 文化庁の上部組織である文部科学省の官僚出身で評論家・映画プロデューサーの寺脇研さんも、ここで私が指摘する本件文化庁映画助成金制度の矛盾点を「高橋監督が仰ることがごもっとも」と同意したうえで、「自身が文科省に居た時に(この不公正な制度を)変えられなかったのは、申し訳ない」と、私にコメントを送ってくれた。

 さて、私が都倉俊一文化庁長官に郵送した意見書について、文化庁の所管からは何の応答もなかったため、3か月を経過した2022年3月末にメールを送った。
 このやりとりの中で、問題の映画製作助成金制度は「文化庁参事官(芸術文化担当)付課映画振興係」の所管で、文化庁参事官・山田素子氏がとりあえずの裏ボスらしいことがわかった。
 ところが、連中は毎回のメールごとに送信者も異なっている様子で、どこまでも「霞ヶ関官僚ロジック」で、鵺(ぬえ)のように私の質問から逃げ続けたのである。

 私自身も、当該映画製作助成金の交付を受けて作品を製作、監督した実績がある(笹野高史主演『陽光桜-YOKO THE CHERRY BLOSSOM-』2015年製作・配給作品)。だからこそ、当該映画助成金の運用の矛盾点、不公正さを経験者としてよく理解できているのだ。少なくとも、素性のしれないクレーマーが文化庁にインネンをつけたわけではない。誠意をもって回答しろという話なのだ。

 しかし、結論からいえば、私が文化庁・都倉俊一長官に送った書状の内容は、文化庁参事官・山田素子氏にとって(当然、これより上席の文化庁官僚にも)、極めて不都合であることが容易に推認できたのである。
 「日本の闇は官界」という現実が、文化庁でもあからさまに浮き彫りになったかたちだ。

 それでは、上掲の前回記事2本を踏まえ、「文化庁・都倉俊一長官」シリーズ最終回をお届けする。

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前回までの「文化庁芸術文化課」宛ての質問メールの回答期限は、2022年12月28日としたが、同庁からメール返信があったのは、その前日だった。

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文化庁芸術文化課 2022/12/27 13:19

高橋玄 様

お世話になっております。
文化庁参事官(芸術文化担当)付映画振興係の岩瀬優と申します。
ご質問いただきました件につきまして、山田素子参事官命により、回答させていただきます。
皆様方からいただく文化庁長官宛のご質問事項等につきましては、担当課から回答することとしております。
また、記者会見につきましては、現時点では予定はございません。

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 上記、所管の岩瀬氏の返信では「担当課から回答することとしております」とあるだけで、誰が指揮命令系統の最終責任者で決裁権者であるかは不明である。裁判所の合議体だって、各裁判官の名前は明らかで、誰が裁判長なのかもわかる。
 文化庁ごときが「担当課」が回答するといいながら、課長の名も非公開のままとはふざけている。
 そこで、私は2022年大晦日に、下記のメールを送信した。

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2022/12/31 12:06 送信

文化庁 芸術文化課
文化庁参事官(芸術文化担当)付映画振興係
岩瀬優 殿
文化庁長官 都倉俊一殿

冠省
いただきました山田素子参事官命による貴殿「回答」は、いわゆる「官僚ロジック」に過ぎず、当方の質問本旨に対するご回答に該りませんので、わが国の主権者としての立場から、下記、貴殿及び貴庁長官に再質問させて頂きます。

なお、ご回答は、下記質問番号ごとに明確にお答え下さい。

1.貴殿記載の「皆様方からいただく文化庁長官宛のご質問事項等につきましては、担当課から回答することとしております。」にある、「回答することとしております。」とは、どなたの意思決定乃至命令となりますか?
「質問には参事官が回答するようにとの、長官自身の命令により」等の具体的な発令・任命責任者の氏名及び役職名をご回答ください。

2.前項について「回答することとしております」なる貴殿の回答が、参事官その他文化庁職員による合議乃至所管の決定によるとの趣旨であるならば国民の、長官に対する意見書乃至回答書に対する応対の一切を、貴殿ら文化庁職員の専決事項である旨を定める法的根拠をご教示下さい。 
 また、法的根拠がないのであれば、なぜ貴殿ら職員が、当該、回答を「することとしております」という決定が裁可されるのか、その理由を具体的にご回答下さい。
2-(1) また、長官ご自身には、文化庁長官が国民個人からの質問に、長官名義で回答する必要がないとのお考えであればその理由をご説明下さい。

3.そのうえで「皆様方からいただく」との「皆様方」とは、どのような基準における質問者を指しますか?
3-(1) すなわち、如何なる質問者に対しても長官本人が回答することはないという理解で間違いありませんか?または質問者の社会的地位その余の背景事情を勘案して
3ー(2)質問者の選定・選別の結果乃至その過程によっては、長官名義での回答を示すことがある場合、その国民の選別は誰の権限と責任によるものですか?

以上6点につきまして

令和5年1月31日を回答期限として、本メールへの返信または文書でご回答下さい。
なお、同回答期限までにご回答が困難であるときは、その具体的な理由を同前回答期限までにご回答頂き、上掲質問の最終回答期限を同年2月17日までにお答え下さい。

GEN TAKAHASHI (高橋玄)

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 すると、私が指定した回答期限当日、1月31日に返信があったものの、
今度は所管職員「岩瀬優」の名が消えており「文化庁参事官(芸術文化担当)付映画振興係でございます」と、「係」名義に戻っていた。

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芸術文化課  2023/01/31 15:17

高橋 玄 様

お世話になっております。
文化庁参事官(芸術文化担当)付映画振興係でございます。
包括的なご返信となり大変申し訳ございませんが、
文化庁長官宛に外部の組織・団体や個人の方よりいただくご質問事項等への対応について具体に規定している法令はなく、運用として担当課から回答しております。どうぞよろしくお願い致します。

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 なにが「どうぞよろしくお願い致します」なのか意味不明で支離滅裂だ。

ちょっと戻って、この直前の私の質問を確認していただきたい。
「ご回答は、下記質問番号ごとに明確にお答え下さい。」とまで、丁寧に回答を求めたにもかかわらず、「映画振興係」とやらは、私が指定した質問番号ごとの回答などまるっきり無視して、一方的に「包括的なご返信となり大変申し訳ございませんが」と回答を拒絶し、開き直ったのである。簡単にいって、国民をナメ切ったダボラでしかない。

 こいつら「官界」の連中(文化庁の末端所管であっても)は、自分が国家に必要とされている人間で、国に守られていると信じているようで、だから根拠もなく「上から目線」になる。おそらく私が著名な映画人であったとしても、たいして変わらない態度に終始するだろう。
 官吏は「日本を動かしているのはおれたちだ」と本気で思っていて、内閣の国会答弁を書いているのも官僚である。こうした「特権意識病」の末期症状が、たかが映画の世界にも及んでいるということだ。

 本件では、文化庁参事官らが「言葉が通じない素振りのヘタな小芝居」までして、私の質問から逃げ続けたことで「文化庁長官・都倉俊一氏」が、ただのお飾りだったことが明確になった。
 もちろん、文化庁官僚らは「タカハシ?知らねえし。おまえなんか、相手にしてねえだけだ」と思いあがっていることだろうが、この連中は、自分たちこそが社会的弱者であることを知らない。国家という「根拠なきオカルト機関」のために、人間として自壊した官僚の末路を、知らないはずはないのに、自分は「大丈夫だ」と思い込む。それが「特権意識病」だ。

 私は、最後に下記の一文を送り、文化庁との通信を終了した。

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2023/01/31 21:07 送信

文化庁参事官(芸術文化担当)付映画振興係 殿
 
前回当方発信の質問
 
   2.前項について「回答することとしております」なる貴殿の回答が    
     参事官その他文化庁職員による合議乃至所管の決定によるとの趣
     旨であるならば、国民の、長官に対する意見書乃至回答書に対す
     る応対の一切を、貴殿ら文化庁職員の専決事項である旨を定める 
     法的根拠をご教示下さい。
      また、法的根拠がないのであれば、なぜ貴殿ら職員が、当該、
     回答を「することとしております」という決定が裁可されるの
     か、その理由を具体的にご回答下さい。

 
に対する貴殿らのご回答が
 
     包括的なご返信となり大変申し訳ございませんが、文化庁長官宛
     に外部の組織・団体や個人の方よりいただくご質問事項等への対
     応について具体に規定している法令はなく、運用として担当課か
     ら回答しております。

 
 であるところ、貴殿らが日本語さえ解さぬ素振りを演じてまで一連の本件メールの端緒たる当方「意見書」の存在が、貴殿ら文化庁参事官付映画振興係にとって不都合である旨、じゅうぶんに理解致しました。
 
 具体的な質問に対しては「官僚ロジック」で逃避、回避を繰り返し、即ち、主権者に対する誠意と責任を負う使命感などは皆無にして、ただ単に官僚としての特権意識と昇給乃至は利権しか念頭になくとも、その卑しく浅ましき税金泥棒根性を覆い隠す借景として、厚顔無恥にも「文化芸術」を名乗る貴殿らの傲岸不遜な態度、不作為は、日本の官僚に不変の構造的腐敗であり、貴殿らの国賊たる証左です。
 
 本文メールもまた、貴殿ら「文化庁参事官付映画振興係」一同が共有しているものと思料しますが、そもそも貴殿らの所管構成素因は、生物学的な実体として「人間」である点に疑いの余地はなく、従って、当方は予てより、上掲貴殿らのご回答である「担当課」なるものの指揮命令系統の最終決裁者を誰何したものである。
 
 然るに貴殿らは、当該の質問主旨を理解した上で、当方指定の回答期限だけは順守する、形骸化した役人対応に開き直り、且又、貴殿らをして回答することが不都合な当方の質問を「理解できない素振り」をしてまで、組織防衛のために、自己を封殺し、特権意識に肥大する自我と、僅かばかりの(しかし倒産することはない)生涯給与を口実に、人間としての己の実人生に対する疑問さえ封印する、誠に無様で不毛な任務を、思考停止の内に継続するだけの、無価値な今日を終えています。
 
 係る当方の、真に「文化芸術」に生きる人間の言葉を、貴殿らが理解し得ないことは自明でありますが、貴殿らの、主権者に対する背信行為は、貴殿ら各個が想像も出来ないかたちで、後年、国民の審判を受けることとなるでしょう。
 
 日本の文化予算、文化政策が他国に比して極めて劣悪である直接的な原因が、まさしく貴殿ら腐敗官僚にあることを、貴殿らは些かでも自覚するべきである。
 
 以上、腐敗文化官僚たる貴殿らに対する質問を終了致します。
 
 なお当方は、都倉俊一氏に対しては、同氏が文化庁長官を退官後も、本件責任を追及する言論活動を継続する所存でありますところ、「ペッパー警部」長官にお伝え下さい。
 
不一
 
映画監督
GEN TAKAHASHI (高橋玄)

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 以上が、「文化庁・都倉俊一長官」シリーズの最終回である。都倉氏は今年3月の年度末で、お飾りのまま、めでたく文化庁長官を退官する。ヒット歌謡曲メーカーは、権威主義者だったというわけかな。
 次は誰が日本の「芸術文化」を騙るのか(”語る”ではない)、アホらしくて相手にしてられない。4月からは京都に移転だってなあ。毎日のように税先斗町で宴会三昧でもやるんだろう。税金使って。
 今後は、映画の母国で、映画文化政策と予算が日本と桁違い(日本の4倍以上)のフランス文化省の所管にしたら少しはマシになるんじゃねえの?


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