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【対談後編】学生に負担を強いない社会へ。この国にはまだ希望があると思い始めた学生がいる。 大空幸星×福山哲郎 4月27日

新型コロナウイルスによる深刻な影響を受けているのが、大学生です。4月27日は、学費減額の署名運動に携わる現役慶應大学生の大空幸星(おおぞらこうき)さんをゲストにお迎えし、現状をお聞きしました。後編をお届けします。(前編はこちら

※実際の対談の様子はこちらからご覧いただけます。

与党も野党もお互いのアイデアを出さないといけない

福山:まずは、生活が苦しい学生を救わなくてはなりません。しかし同時に、学費の期限が迫っている中で学費も支払わなくてはならない。制度としてその二つの救済を一度に行うことは難しいので、そこをどのような組み合わせにするのかがこれからの政治の課題です。やはり文科省が出てこなくてはいけないですよね、現実的には。

大空:文科省を回った際に、4月から始まった就学支援新制度を広く周知する必要があるとおっしゃっていました。しかし、この制度はすべての学生が使えるわけではありません。対象となる学校とそうでない学校に分かれます。四年制大学と短期大学、高等専門学校は100%が対象に含まれますが、専門学校は62%しか対象にならず、残りの38%は対象外になってしまいます。それは専門学校の1000校にあたります。1校あたりの平均在籍者数を考えると、20万人以上の人がそもそもこの新制度を利用できないのです。さらに、大学院生も対象外なので、あとはもう貸与型の借金をするしかないという話になります。対象になっている学校でも、住民税非課税、それに準ずる世帯であることが求められるなど、非常に条件が厳しく、果たして本当に支援を必要としている学生に届くのかという疑問があります。僕らの相談窓口やtwitterでも、「もう退学しなくてはいけない」という声が上がっています。あと、これは10万円の世帯給付と同じ問題なのですが、親には収入があっても親を頼れなかったり親が協力しれくれないケースもたくさんあるので、そういった方々はどうすればよいのでしょうか。

福山:まずは支援の仕組みをつくらなくてはどうしようもありません。大学への学費の減免や施設等の維持管理費等に関する経営状況に対しては、文科省側で、大学側とのコミュニケーションで学生へのフォローしろという支援を国の予算として取り、個別の学生についての支援は持続化給付金を使ってやる。我々の試算だと、日本の学生数は360万人となります。持続化給付金を必要とする学生が仮に100万人いたとしても、実は2160億円なんですね。この金額は、今回の補正予算の持続化給付金の枠内で十分に呑み込める額なんです。もし政府与党から大学生を救済する案や大学を支援する案が出てきて、それが我々の提案する案よりも内容が良ければ、いくらでもそちらを実施すればよいのです。今は与野党も対立しているわけではなく、お互いのアイデアを出している状況です。その中でよりよい方を選択することが大切です。しかしながら、黙っていてもアイデアは生まれてこないわけですから、与党も野党もお互いのアイデアを出さないといけません。

大空やれることはすべてやらないといけない状況に来ていると思います。日々状況は変化していて、僕らの相談窓口に来た学生からの退学や生活困窮に関する相談は、先週1週間で3件でしたが、今週は2日間で43件です。かなり状況は厳しくて時間がないんです。野党の方が学生の声を拾いやすい立場にあって、与党と比べてもそこらへんは得意だと思うので、しっかりと困っている人たちの生の声を拾い上げてほしいと思います。

学生に負担を強いない社会へ

福山:留学生については今どのように考えていますか?

大空:僕らの署名活動には留学生もいます。日本人と同じようにバイトし学費を払っているのに、彼らだけ支援を受けられないのはおかしいだろうということで、僕らの署名では、留学生も含むすべての学生への支援を求めています留学生の置かれている環境は、日本人よりもかなり厳しい。例えば日本人だと新制度を含めていろいろと利用できる制度があったり、相談窓口にも恵まれているが、留学生は違います。僕らの相談窓口に来た中国の留学生の方は中国人というだけで日本人からかなり冷たい目で見られたそうです。留学生たちもギリギリの状態の中でさまざまなストレスを抱えています。彼らの存在を忘れてはいけません。

福山:留学生も同じ条件ですもんね。そのような差別やヘイトみたいなものがない社会にしないといけない。

大空:それも多くの学生が望んでいることです。同じ教室で共に授業を受けているのに、彼らは支援を受けられず自分たちだけが受けられる。普段から留学生と接している学生としては、それでいいのかという疑問があります。

福山:社会福祉協議会等で、貸し出しですが小口資金の生活支援制度というものがあります。

大空:ありますが、生計維持者の問題が関わってくると思います。僕らが受けるコロナ関連の相談で二番目に多いのは、家に居場所がないという若者からの相談です。虐待をはじめ家庭内トラブルや親子関係などさまざまな問題を抱えていて、家にいられない。これまでは学校やアルバイト先、友人関係などに居場所や拠り所、逃げ場があったけれど、今はコロナによる自粛でそれらがなくなってしまっている状態です。家にもいられずSNSで一晩泊めてくれる人を探す「神待ち行為」、多くの場合には代償として性交渉を求められたりします。そのようなことをせざるを得ない人がいるわけです。果たしてそのような人は支援を受けることができるのでしょうか。親とは連絡も取れない人もたくさんいます。それで自分の学費も生活費も工面しながら学校に通っている学生もいて、彼らはさらに厳しい状況に追い込まれています。支援も受けられず、社会の中で忘れられた存在のようになっています。支援を行う学生支援機構などから見れば「両親の収入があるじゃないですか」というようになってしまうのですが、親を頼れないケースもあるんです。

日本人の留学生の現状は?

福山:海外の事情について把握されていることはありますか?

大空:海外の大学に通っている知り合いの学生は、現在ほとんどが帰国しています。海外の大学の多くは、新学期が9月スタートなので、ちょうど自国に帰っていても問題ないのです。最近は日本でも9月始業に関する議論が一部でされていますが、これから議論が進めばいいなと思います。

福山:そのような議論は出てきていますね。小学校や中学校、高校では4月の新学期が始まらないので、このまま夏休みまで学校が始まらない状況になると、9月新学期入学制度のような形で海外と合わせてやっていこう、これをきっかけに国際標準に合わせようという議論が出始めています。

大空:実は僕はSFCに9月に入学しています。特に留学するときなどは、9月始まりだと日本からも留学しやすいですし、反対に海外の優秀な大学生も日本に留学しやすくなります。それぞれの大学の競争力を強化することにつながったり、教育の質が上がったりとか、いろいろなメリットがあると思うので、これを機に、なかなかない機会だと思うので、議論が盛り上がってほしいと思います。

福山:この9月入学の話は、社会の影響が大きいので、これから我々も積極的に議論をしていきたいと思います。

いま社会に求められるのは「想像力」

福山:先ほど、自分たちも困難な状況の中にあるにもかかわらず、自分たちだけが持続化給付金の対象になってもよいのだろうかという学生の声があることを紹介してくれました。自分たちは対立を望まないからと。すごく良識的な意見だと思いますが、そんなことは思わなくてもいいんです。ほかの方も皆大事ですが、学生の皆さんも大事なんです。やはり子どもたちや学生にちゃんと税金・財政を投じることが当たり前の社会をつくらなければならない。それを大人側が言わずに学生側が「我々だけもらうのは……」とへりくだるのではなく、しっかりと大人の側が未来の世代に目をかけていく社会であってほしい。そんな社会の実現に向けて僕らも声を上げていきます。皆さんは、自分たちは勉強したい、未来をつくっていくので自分たちのことも視野に入れてほしい、ということを主張してほしいと思います。

大空:とても勇気づけられ、ありがたいです。僕らは早慶の学生で署名活動をやっていて、ある種ジレンマに陥っている部分があります。早慶では資金残高が700億円とかあるので、学生に対する支援も求めれば動く可能性は高い。実際に、早稲田は給付を決めました。僕らのような財政力のある大学に通っている学生は支援を受けられるけれども、他の学生は支援を受けられなくなってしまうのではないかというところで、もうすぐ署名人数は目標を達成するのですが、いつどのようなタイミングで署名を提出すればよいかということをかなり考えてしまっています。なるべく早くに国が各法人や各学生に対して支援をしてくれればよいのですが、給付を貰える大学に通っている学生としては心苦しい思いがあります。

福山:国や社会を通して皆さんを守ることこそが、我々の役割です。野党だから限界はありますが、与党にそのことを強く求めることはできるので、ぜひこれからも声を上げ続けてください。

大空:こうやって学生の現状を理解してくださっている政治家の方がいるということは、学生にとってもとても心強いと思います。僕はこれから必要なのは「想像力」だと思っています。議員の皆さんもそうですし、すべての社会の人たちが持つべきだと思っています。この制度では救われない人がいます。例えば、スーパーやドラッグストアでは逆に忙しくてアルバイトにたくさん入らないといけない状況もあって、収入が扶養の範囲を超えてしまうという心配の声が上がっています。今年は扶養の範囲を撤廃してほしいというような意見があったり、これも想像力を働かせれば理解できる問題だと思います。すべての学生が僕らのように声をあげられるわけではないし、日々の生活でいっぱいいっぱいの学生もたくさんいると思います。僕らの相談窓口を積極的に利用してもらいたいとは思いますが、周りに困っている人がいないかどうか見渡したり、想像してみることが、為政者や国会議員も含めてすべての人に求められていると思います。

福山:大空さんから、政治はどのように見えていますか?

大空:僕も含めて多くの学生はこの国に未来はない、この国の政治は自分たちに対して何もしてくれないと思っていますだから投票率も低い。ですが、どうしようもなくなって声を上げるしかなかった学生たちが声を上げ、実際に国会で議論が始まりました。多くの学生はこれを肯定的に捉えていて、自分たちが声を上げたことによって実際に国が動いているぞという思いを抱いていますこの国にはまだ希望があるのではないかと思い始めた学生も多いと思います。与党も野党も含めて国会議員の方がそのような思いを裏切らないように、学生の声を汲み取っていろいろな支援策を示してほしいと思います。

福山:言うだけではだめで、政策は実現しなくてはならない。僕らは野党なのですごくそこに対するジレンマを抱えていますが、声をあげれば届くので、これからも国会の動きをぜひ注目してください。少しでも皆さんを救済するような仕組みをつくりたい。これからも皆さんと連携しながらいろいろなことを作っていきたいと思います。本日、本当にありがとうございました。

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